ソード・オブ・ブラッド
ソード・オブ・ブラッド(中国:2018年)
監督:スン・チュアンリン
出演:リー・グアンディン
:リー・イェン
:アー・ウェン
:マ・ジュンチャオ
皇帝に謀反をたくらむ高官の陰謀を阻止するため、腕利きの二人が追われながらも戦い、ヒロインや仲間の助けを得て、立ち向かっていくアクション時代劇。中華史好きなら聞いたことのある悪名高い組織が応酬しあう政治時劇もあるものの、強引なアクションで解決するという無理も感じる。やはり暴力はすべてを解決するのか。
中華は明帝国の時代。皇帝直下の諜報機関、東廠の督主(長官)は皇帝位簒奪の陰謀を企てていた。そのカギを握るある官僚を追っていた、秘密警察組織、錦衣衛の督主は腕利きの二人に官僚の身柄確保を命じる。が、抵抗する官僚は突然介入してきた東廠に惨殺されてしまう。錦衣衛の督主はこれまでの経緯をたどり、東廠の督主が身柄を預かっているかつての閣僚の娘と接触。謀反の証拠と思しき密書を手に入れる。しかし、それも東廠督主の罠であり、ウソの讒言の罪で錦衣衛督主は刑死させられてしまい、錦衣衛も東廠督主の支配下にされてしまう。腕利きの二人は脱走し、陰謀の証拠を再び捜索し始める。
アクションのつながりが悪いというのが本音。期待通りの華麗な動きを見せるが、映像はバタバタともたつくような編集となり、次の画面に移っても先のアクションとつながりが悪いので、惹きこまれるような没頭感はない。錦衣衛の二人は腕利きということだが、一つ一つの動作にスピード感、キレを感じることができなかったので、観ていると飽きる。中盤雨の中で多数の鎧兵士との乱戦があったが、陰影をつけて映像を無理にきれいに見せようとするあまりか見づらく、現実的ではない(それが武侠ものの醍醐味だけど)アクションを見せつけられて反対にげんなりする。弩(中華でのボウガン)が使われるシーンが多いんだから、囲んで廻りから撃てよと東廠側から考えてしまった。
設定も分かりづらい。中華史に詳しい人なら明朝の東廠と言えば、宦官から組織された弾圧組織で、悪名は知れ渡っている。しかしこの物語ではその悪辣さは語られず、督主の私兵のような存在。対する錦衣衛はその督主の悲劇性から正義側として扱われているが、実際は東廠の下部組織として政治犯に対して弾圧、拷問を加えるような民衆に恐れられた組織でもある。それらに説明はなく、急な政治劇を展開し、陰謀で破滅させるのはあまりにも唐突に感じた。
出てくるキャラクターにも分かりにくさを感じる。錦衣衛の腕利き二人は番号で呼ばれているが、それが何で呼ばれるのか。お互い名前で呼び合ってよき相棒として活躍するのに、その背景が少ない。明るく武術に長けている無鉄砲な男は明朝に滅ぼされた国の王族の出らしい。故国を滅ぼした明朝の将軍の姓が東廠督主と同じらしいので、あいつには個人的に恨みがあるといったのは何かコミカルで魅力的だった。寡黙な相棒は更に武術の達人で自分を語らないが、圧倒的に強く頭脳も切れる様子。この男が主導して陰謀を追うが、自身を流れ者と称して過去を語らないのに男を感じたが、物足りなさも感じた。せっかく雨の中の格闘があって見せ場も作るのに、アクション編集がもたつくので魅力が半減してしまっている。もったいない。ステレオタイプの悪役、東廠督主は演技がクド過ぎるような気がするが、最期は謎パワーを使ってラストバトルを圧倒してくれるのは良い。でもここもアクションの間が悪い気がする。ヒロインもいるが、今の時代、きれいなだけでは魅力的に映らんのよなぁ。政治劇にバンバン介入して、女性らしい機転や愛嬌、そして男を出し抜く度胸を見せてくれることを期待してたんだがな。
ストーリーやアクション、設定に古さを感じさせられる作品。最新を取り入れててくれとは言わないが、アクションとドラマをつなげて、帝国の腐敗にはびこる悪に対して、ヒーローやヒロインが苦境にあえぎながらも打倒していく過程を楽しみたかった。東廠の督主は宦官であるのかを語られていないのは、LGBTQに配慮した時代なのか。中華史は宦官や外戚、官僚がスケールのでっかい腐敗と汚職を繰り広げるから面白いんだがなぁ。