グリーンブック
グリーンブック(2018:アメリカ)
配給:ユニバーサルピクチャーズ
監督:ピーター・ファレリー
出演:ヴィゴ・モーテンセン
:マハーシャラ・アリ
:リンダー・カーデリー
悪名高いジム・クロウ法がまだ施行されていた60年代初頭のアメリカ南部で8週間のコンサートツアーを敢行した黒人ピアニストがいた。ステージでは絶賛される彼だが、ステージを降りると激しい差別にさらされる。そんな彼と無学でガサツなイタリア系元用心棒との旅の顛末を描く。彼らが手にしているのがグリーンブック。黒人がアメリカ南部を安全、快適に旅するためのガイドブックである。
なぜこの作品を手に取ったかというと、ヴィゴ・モーテンセンが好きだったから。強面の顔で堂々とした体躯。いかにも腕っぷしが強い荒くれものという役柄がよく似合う。彼が演じるイタリア系もアメリカ社会ではマイノリティだ。粗暴で悪知恵が働く人間だが、家族一族への愛情は深く、ピアニストが陥るトラブルを口先と度胸と賄賂も使い、時には暴力も交えて対処していく演技は男気を感じた。
更にアフリカルーツのピアニストを演じたマハーシャラ・アリもよかった。長身に背筋が伸び、バラエティに富んだ衣装をビシッとキメる。演奏時のタキシード姿は非常にカッコよく、立ち振る舞いに優雅さと気品さを感じた。静かで知的な雰囲気があり、元用心棒のガサツさに苦労しながらも彼の変化を助けていく。同時に気品あるがゆえ差別の不条理が際立つ。あれだけ元用心棒が警官へ賄賂を渡したのを嫌悪していた彼が、不条理に拘束された際、司法長官から圧力をかけさせたシーンも、後悔はしていたが彼の中でも少しづつ変化が現れていたように思えた。
ターコイズブルーのヴィンテージアメ車や美しい景観。ノリのいいオールディーズナンバーとピアニストのきれいな旋律。映像と音楽もいい。有色人種専用のクラブでバンドと即興でセッションするシーンはアメリカの音楽の懐の広さを感じ、そして楽しく観ていた。
我々日本人は人種差別に直面する機会は少ないためピンと来ないが、ディープサウスと呼ばれるアメリカ南部は有色人種への差別が根深いと聞く。当然作中でも描かれており、有色人種専用のホテル、掘っ立て小屋のようなトイレ、白人の集うレストランでは食事ができない等々頻繁に表れる。しかし法律や慣習が差別を認めていたのだからどうすることもできない。特に憤りを感じたのは警察までが差別の執行者であったこと。公権力が差別を行うと悪意が止まらなくなってしまう。
二人が旅を通じて衝突し、お互いを理解し、友情を築いていく。皿とフォーク・ナイフでしか食事したことのないピアニストが戸惑いながら手づかみでフライドチキンを食べて笑っているシーンや、元用心棒の妻への手紙を添削指導している姿など、お互いの関係が少しづつ変わっていくのが見られる。人は人種で区別するのではなく、互いの歩み寄りが必要なのだと感じた。ガサツな元用心棒が車窓からごみをポンポン捨てるが、ジュースの紙コップを捨てた時は拾いに車をバックさせたシーンは笑った。
この作品は実話に基づいた話で、脚本・制作のニック・ヴァレロンガは元用心棒の息子。父とピアニストへのインタビューや作中の手紙等から作品を作り上げたという。事実の方がお話よりドラマチックだったといういい例だろう。
ただアフリカルーツの人たちからは批判が大きい。弱者である黒人を、強くて正しい白人が救うという、いわゆる「白人の救世主」という構造だからだそうである。こういう批評にピンと来ない自分はやはり人種差別へのリテラシーが低いのかもしれない。世界は未だ差別にあふれているが、誰しも人種に関係なく尊重される世界であってほしい。
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