帝戦 BAD BLOOD
帝戦 BAD BLOOD(香港:2010年)
監督:デニス・ロー
脚本:デニス・ロー
出演:バーニス・リウ
:サイモン・ヤム
:アンディ・オン
:ホン・ヤンヤン
:ジャン・ルーシャー
組織のボスの座を巡って、前ボスの娘が暗躍する物語。アクション中心で見どころは多いが、これが物語に必要かと言われれば、不要だよなって思わされる、もう少し努力が欲しかった作品。ただ色気はないけどジャン・ルーシャーのアクションと存在感は光っていた。
中共からニセ札の原版を持ち出そうとして官憲に追われる一味。逃亡の末、ボスは拘束され銃殺刑に処される。執行前遺言を受け取った長女と弁護士は、香港で一味の幹部たちと会合。弁護士から遺言は米国の長男が帰国した際に公開すると伝えられるが、幹部たちは待ちきれずNO.2の男を次期ボスに推す。長男の実弟は帰国したが、遺言を預かる弁護士は謎の転落死。そして長男は運転していた車が爆発して殺害されてしまう。そして長女は髪を切り、強めの化粧をして大胆に行動を始め、組織のボスに上り詰める。
まず驚いたのが、序盤のボスが銃殺刑に処されるシーン。ちょっとした運動場のような広場で観客を入れて執行していた。えぇ!っと思い検索すると、かの地では公開処刑をしている地域もあるそうな。こんな反人道的な行いやってるのが驚き。でもそこからの物語はよくある組織の跡目争い。血縁を重んじてボスの子たちが就くか、ボスと行動を共にしたNO.2が就くか。物語は動いていくが、ヒリつくような駆け引きは少ない。長女が組織の権力を欲して血を分けた弟を暗殺して、父の愛人の子を懐柔して手先にし、対立する幹部たちを堂々と襲撃させるという展開がダラダラと続く。そもそもボスや幹部たちが自ら危ない橋を渡って行動しないといけない組織って大した組織じゃない。
実弟を暗殺した後に、長女がその本性を現し、組織を牛耳ろうとする。容姿を変えて美と強さをアピールし始めるが、残念悪の華にはなり切れていない。確かに美人でアクションには華があるが、わざわざアクションを繰り広げる必要はなかったと思う。顔に大きなアザのある武術に長けた異母弟を懐柔して、対立する幹部を襲撃させるが、その異母弟も殺してしまう。その導入がちゃっちい。実弟の暗殺はあくまでもしらばっくれて殊勝に喪に服した癖に、異母弟はここで殺したらいかにもバレバレやんって状況。最後に残ったNO.2との決闘なんかはハイリスクでしかない。ここでこそ謀殺を使うべきだろう。
全編通じてちゃっちい構成が目立つ。オープニングの一味が追われるシーンでは官憲は銃火器で武装しているのに誰も撃たない。拳銃や中共製カラシニコフ振り廻して、ご丁寧に格闘戦に付き合い、全員のされるという体たらく。幹部たちも異母弟の暗殺に備えていたと大勢の部下たちと迎え撃つが、みんな棒っきれ振り廻してわらわらと群がる程度。異母弟とその弟子の喋ることができない格闘少女の二人に全滅させられる。格闘アクションに引っ張られて、香港ノワールらしい派手で哀愁漂う銃撃戦を忘れてしまっている。
主要キャストがこの程度だが、個人的には先述の喋ることができない格闘少女の存在がよい。幼い頃親に捨てられた後、異母弟に拾われ、彼から武術を習い、凄まじい手練れに成長したという背景を持つ。そのため恩ある異母弟に惹かれており、異母弟のバイクの後ろでもの思いに寄りかかる姿はこの作品唯一の純愛シーン。アクションはスピード感あり、扱いが難しい鏢縄を振り廻す姿がカッコいい。多勢を相手にするときは走り廻って、敵を分散させる戦いのセオリーを見せてくれる。ボサボサの散切り頭にもっさい衣服。化粧っ気もなく色気もまったくないが、このスピード感とアクションの豊富さは素晴らしい。気になって演じているジャン・ルーシャーの画像を探すとバッキバキの腹筋を見せつけて男前なカッコで映ってた。これは香港で終わらすのはもったいない逸材と思わされた。
ラストまでダレた構成や展開が続き、何度も集中が途絶えた。やはりお国の方針が映画にも影響を与えているのか。序盤の公開銃殺刑や派手な銃撃戦シーンの規制、マイルドな見せ方にシフトしたノワールものなどなど、退屈に感じてしまう粗が目についた。その中でも逸材が見つかったの収穫か。アジアや世界に雄飛して欲しい。