マイレージ、マイライフ
マイレージ、マイライフ(アメリカ:2009年)
監督:ジェイソン・ライトマン
原作:ウォルター・カーン
出演:ジョージ・クルーニー
:アナ・ケンドリック
:ヴェラ・ファーガナ
:ジェイソン・ベイトマン
:メラニー・リンスキー
学生時代に旅を住処とするという言葉に憧れはあったが、実際はかなり困難なことと思い直した。なら旅を仕事にすればいいんじゃないかと思い、一時はツアーコンダクターの資格を取って、旅行代理店に就職しようと考えたこともある。まぁ今の旅行業界の状況を見れば止めといて正解だったわけだが。人事コンサルタントの男がマイレージを貯めることに執心するが、ある出会いからの心が変化していく。でも旅がらすは最後まで旅がらすというほろ苦いヒューマンコメディ。
人事コンサルタントの男はアメリカ中を飛び回り、依頼先の企業で社員へのリストラの宣告をしていた。講演では深い人間関係に拘らず、身軽に生きようと語り掛ける。そんな彼の楽しみは航空会社のマイルを貯めて、最年少での1000万マイル達成を目指すこと。宿泊先のホテルでいい仲になった女性とも同じ境遇から気楽な関係を楽しんでいた。そんな時、自身の会社に呼び戻された彼は上司から、入社した若手の有能な女性社員の発案からの提案、今後はオンライン通話による解雇通告に転換し、その行程もマニュアル化することで業務の改善、経費の削減を図ると説明。導入まで現場を知らない彼女を教育を押し付けられて、彼は女性社員とともに、実地指導のため再び全米を飛び回る出張へ。二人はお互いの考えや生き方、仕事の理想と現実、出会いや別れに揉まれつつ、彼女が一人の女性への解雇通告を行ったところから物語が動きだす。
主演のジョージ・クルーニーが人事コンサルタントに扮して、次々と解雇通知を宣告するところから始まる。宣告された従業員は様々な反応を見せるが、誰も急な解雇に納得いかない弁を述べる。コストカットの名目で次々と解雇される老若男女を見ていると辛くなった。海の向こうは厳しいなというのが実感。その非情な宣告を淡々と表情を変えず処理していく人事コンサルタントに憎たらしさを感じるが、それも彼の生き方でもあり、自分も同じ立場なら同じことができるのかと自問自答する。解雇の衝撃に共感していては仕事が務まらないし、自分の精神状態もまともでもいられないと思う。そんな誰とも深く付き合わない彼の楽しみが航空会社のマイレージを貯めること。なので出張続きのこの職は適職だとも言える。軽い関係を楽しんで、講演では荷物を持たない人生を語り、マイルを貯めて生きていくのが続くかと思われたとき、新人女性社員の提案するオンライン通話で解雇を宣告するシステムが計画される。彼女に現場を見せるべく出張に同行させると、お互いの人生観、価値観がぶつかり波乱が起きる。でも人事コンサルタントも悪人ではないので、彼女の思いや境遇など感じ、変化が生まれていく。その心の機微をジョージ・クルーニーが非常に上手い佇まいと表情で演じていくのが見事。あんなに人生の荷物を背負うのを嫌がった男が後半に連れて変化し、表情豊かに笑っているのが印象深い。でも今までの代償なのか苦い展開が待ち受けており、どんな人生も思い通りにはいかないことを思い知らされる。
その彼を取り巻く人々の生き方も垣間見られるのも面白い。彼と気軽な関係となった女性エージェントや、彼の生き方に疑問をぶつけてくる新人女性社員。彼の妹とその結婚相手。それぞれが生き方に立ち止まり、それぞれが思い思いの行動をとる。その一つ一つが彼に影響を与え、今までの生き方を振り返り、自分は何を求め、何をしたいのかを訴えかけてくるようだった。
ラストが人事コンサルタントのこれからを示しているようにも見える。どんな生き方をするのかは分からないが、彼のこれからがより人間らしさを感じるものであることを願わずにいられない。生き方は振り返ることはできるが、時間は戻らない。なら振り返った生き方をこれからに繋げる、これからを豊かにすることが大事なんだろうと思う。今の自分にとって分かれ道の時にいたので、観終わると非常に印象に残る。この作品をまた何年後かに観るとまた違った感触を受けるのかもしれない。