バビロンA.D.
バビロンA.D.(アメリカ・フランス・イギリス:2008年)
監督:マチュー・カソヴィッツ
原作:モーリス・G・ダンテック「バビロン・ベイビーズ」
出演:ヴィン・ディーゼル
:メラニー・ティエリー
:ミシェル・ヨー
:ジェラール・ドパルデュー
:シャーロット・ランプリング
知人が語る世界三大最強スキンヘッドというランキングがある。その一角であるヴィン・ディーゼル演じるやさぐれた傭兵が、謎の少女とそのお付きのシスターの二人を、荒廃した近未来のユーラシア大陸を東へと突っ切ってニューヨークへ運ぶSFロードムービー。アクションは面白かったが、物語が中途半端で、もっとドラマが欲しいと感じた残念な作品。
時代は荒廃した近未来。ユーラシア大陸は紛争の最中にあった。アメリカ出身の傭兵は中央アジアで傭兵稼業をしているが、生活に疲れていた。そこにかつての傭兵仲間から襲撃を受ける。拘束された彼はマフィアのボスの前に連行されある人物をニューヨークまで運ぶ依頼を強要される。テロリスト認定されている彼はアメリカへ入国することはできないが、帰国を願う彼は打つと別人物と認定される注射パスポートを前払い報酬として依頼を引き受ける。指定された修道院に到着すると白人の少女が東洋系のシスターに伴われて現れる。少女が依頼の人物で、彼らはユーラシア大陸を西から東へ進み、海を渡りアメリカ大陸を目指す。その道中で少女は少数民族の言葉を話したり、旧式の潜水艦の操作をしたりと特異な行動を見せる。彼女は何者か。たどり着くニューヨークでは何が待つのか。
主役のヴィン・ディーゼルは初見。有名なカーチェイスアクションはまったく見ていないのでほぼフラットな感覚で観る。アクションに説得力があり、なるほどと唸るほどの存在感。敵に羽交い絞めにされた状態から小銃を奪い、小気味良いテンポでバッタバッタと倒していくのがカッコいい。ピンチからの逆襲が画になる。でもアップになると若々しさを感じられなく、意外と顔にしわが多かったのが残念。今作ではやさぐれて疲れた傭兵なので、この容貌は適しているのかもしれないが。そんな傭兵が運びの対象である少女と付き添うシスターを守るため、初めはそっけなく、中盤から熱く守ろうとするのがお約束。映画的ではあるが、急な思い入れの強さを感じてちょっと戸惑う。後半最後はそんなんあり?と疑問を感じてしまった。
彼が運ぶ少女に大きな謎があるのもお約束。幸の薄そうな容姿だが、旅の途中特殊な能力を発揮してトラブルを回避して、何かしらの集団にも狙われる。彼女が育てられていた中央アジアの修道院から本部のあるニューヨークに移送するのが大筋だが、そこまでして秘密裏に運ばなければならない理由が分からない。マフィアがもっともらしく依頼してくるが、バックに大きな新興宗教がいるのであれば、金や物資にモノを言わせて堂々と運べばいいんじゃね?とツッコむ。これもお約束的に彼女はある目的のために創造された存在で、新興宗教がより巨大になるための重要な要素。だったら最初っから手元に置いて養育したらよかったんでないかな。出生時のゴタゴタがあったとは言うが、説得力に欠ける。
物語は国家が荒廃したユーラシア大陸を東へ横断してアメリカ大陸へ渡っていくが、その荒廃した世界があまりにも現実に繋がっているようで、たまらなく不安を感じた。戦争で荒廃した街には戦車が放置され、小銃を投げ売りするような商いを営む連中が群がる。インフラが止まった団地や闇市には難民が何とか生き延びようと暮らし、その上前をはねるかのように汚職や犯罪がはびこる世の中。誰も自分が生き延びることで精一杯。他人を思いやる余裕なんてない。そんな世の中が現実今もあるし、場所が中央アジアだけに薄ら寒いものを感じた。北の大国とアジアの赤い国はこの世界ではどうなってしまったのか。その反対にアメリカ大陸、特にニューヨークはきらびやかなネオンと最先端のテクノロジーを享受している状況に世の理不尽さも感じる。
ユーラシア大陸を横断するまでは切迫感あり、謎があり盛り上がっていくが、北米大陸に渡ってから物語が尻すぼみになるのが不満。安全圏内ではあるんだろうが、危機があり仲間割れもあるのだが、謎の少女の行動がブレブレなので盛り上がらない。より陰謀の深みを増していってほしかった。そして終盤に至っては消化不良。続きを作る気があったのか主人公とラスボスのその後に含みを持たせているが、期待はまったく湧かない。
物語は今一つだが、テクノロジーは今後で実用化されそうなもの、もう実用されているものなど過去の作品としては先見的に感じる。その設定を活かして、荒廃する世界の中誇りと望郷を持ったアナログな主人公が身体を張って戦う心情をもっとクローズアップしてほしかったな。