ビットコイン・ウォーズ 暗号資産の行方
ビットコイン・ウォーズ 暗号資産の行方(アメリカ:2019年)
監督:ジョン・スタールシルバー・Jr
原案:ジェフリー・インクバー
出演:ボー・ナップ
:アレクシス・ブレデル
:ルーク・ヘムズワース
:ジェレミー・ハリス
:カート・ラッセル
最近ひょんなことから銀行や金融の専門家と会うことが多かったので、経済に関する作品が観たくなった。その中でもビットコインについてはよく知らないので、入り口に観てみようと思ったが、タイトルとは関係なく、違法な資金洗浄を巡った陰謀を、飛ばされた銀行マンが暴いていく作品。雰囲気はいいんだが、肝心のストーリー展開は盛り上がりに欠ける。
有能なはずの銀行マンの主人公は意志の強さと不遜な態度で左遷させられる。飛ばされたのは故郷の田舎町。前任の監査担当者のファイルを洗っていると、町の画廊の不透明な資金の流れに感づく。ITに詳しい幼なじみの酒屋店主の協力をうけつつ、画廊の女性スタッフからも証言を受け、次第に画廊とその会計士の背後に暗躍するロシアンマフィアへと近づいていく。それと同時に不作で貧窮している自身の父と、戦争帰りで心に傷を負った兄との関係も浮かび上がる。それらを巻き込んで、ロシアンマフィアの凶手は彼に近づき始める。
スケールは小さい。金融犯罪モノなので巨大企業や世界、国際的反社を期待したが、舞台はアメリカの田舎町。銀行の一支店の監査担当者が見逃していた不正行為を暴く物語であるが、謎や黒幕は早々に見つかる。そこから黒幕の魔の手が忍び寄ってくるのだが、一人一人と消されていくのは不気味な怖さはあった。点滴に薬物を混入させて殺害、建物に火を点けて焼殺、謀殺した後切り取った人体の一部を送り付ける等々いかにもマフィアがやりそうな殺害・警告方法で背筋が凍った。ただ、アメリカの田舎町でここまで根深くロシアンマフィアが喰いこむことができるのだろうかとツッコんでしまう。
アメリカのひなびた田舎町が描かれているが、舞台の街は高級新興住宅地と、苦境に立たされている農家の問題がある様子。なので画廊なんかのハイソなお店もあるようだが、主人公の銀行マンの実家は寒波でジャガイモが全滅しかけている農家。彼と父は母の死を巡って溝があり、お互い疎遠な関係。兄は戦争帰りで心に傷を負ったため銀行マンとは顔を合わせるとケンカになってしまう間柄。家族関係に問題はあるが、ストーリーが進むにつれ、原因は銀行マンの独りよがりのような気がする。治療を受けるには資金は必要だし、特にアメリカのような医療保険がない国なら莫大な費用も掛かるだろう。それが理解できた時、親子間のわだかまりが解けるのだが、氷解が唐突過ぎる気がした。
登場人物それぞれのキャラクター性はよく描かれていて、すべての登場人物が怪しく見えた。酒屋の友人は別として、親しくなった画廊の女性スタッフ、その画廊の女性オーナー、もとから怪しい会計士、更には自分をかばってくれる銀行の同僚等々。それらがふるいのように疑いから落とされ、最後に残るのはロシアンマフィアと繋がる者。それが最後に脅威を及ぼすとき、もう一つの謎も現れ、更に深い疑惑も見えてくる。段々と謎が解決されるが、今一つ盛り上がりに欠けてサスペンスの緊迫感を感じない。家族の絆の再生をからめるなら、銀行マンが孤立し、苦闘し、そのために家族の想いを知るという盛り上げ方が欲しかった。孤立の演出が少ないんだな。
更には田舎町での対比も欲しかった。昔ながらの農業地帯と、それを侵蝕する高級新興住宅地。画廊や高級店舗が揃う町中心部に対して苦境に立たされる農家。ゆるい衣装の田舎支店の銀行員たちに安物スーツでも都会の本行から来た銀行マンとその安物ぶりを見下すハイセンスな女性画廊オーナー等々、画面にもっと対比させることで問題の根深さを感じ取ることができたのではないか。あとのタイトルのビットコインはほぼほぼ関係ない。酒屋の幼なじみが詳しかったので、それを使った犯罪に気づいただけ。
昔某国営放送の英国私立探偵のセリフで、田舎こそ犯罪の温床となっているというセリフがあったが、それを地で行った作品。惜しむらくはスケールが小さくなり、家族の問題を組み込んでしまったことによりしんみり表現となり、サスペンスの緊迫感や疑惑への追究感が薄れてしまった。あとビットコインはほぼ関係ない。そういう先端技術を使った犯罪を期待してたんだがなぁ。
余談だが、ロシアンマフィアが「眠れ、眠れ」とロシア語で語るときのセリフが、ウチのじい様と親父殿(二人とも引き揚げ組でちょっとだけロシア語が分かる)が冗談で「スパーチ」と言ってたセリフに少し感動した。ホンマやったんや。