ハロルドが笑う その日まで

ハロルドが笑う その日まで(2014年:ノルウェー・スウェーデン)
監督:グンナル・ヴィケネ
配給:ミッドシップ
出演:ピヨルン・スンクェスト
  :ピヨルン・グラナート
  :ファンニ・ケッテル
  :グレテ・セリウス
  :ヴィダル・マグヌッセン

北欧発のヒューマンコメディ。主人公の老人はこだわりの良質な家具を扱い、長年地元に根差していた。が、隣に誰でも知っている巨大家具量販店IKEAができてしまう。その6か月後、商売は傾き店を手放すことに。認知症を患った妻の世話もできなくなってしまい、約束を破り妻を老人ホームへ入所させてしまう。その直後妻の容体が急変し帰らぬ人に。自分の店だったショールームに火をつけて自殺しようとしたが、スプリンクラーが作動し死にきれず。その目の先にIKEAの巨大看板が目についたことで、IKEAの会長を誘拐してやるという復讐の念が湧く。そしてスウェーデンへおんぼろの車を走らせるが…。
真面目に働いてきた善良な老人が思いつく誘拐計画だから何もかもうまくいかない。行動も機敏さはなく、ノタノタと急ぐ姿には思わず苦笑してしまった。番犬対策に体中にプチプチ(IKEAで購入)を巻き付けると更に動けなくなり、窓から侵入するも転げ落ちてしまう。侵入した家では思わず家具をチェックしてしまい、ソファで居眠りしてしまう。拳銃を打つこともできないどころか、誘拐したIKEA会長の拘束を解いてトイレの手助けもしてやる始末。役者の善良さがあふれ出しており、アクションの不格好さと緊張感のなさに大笑いしてしまった。
誘拐されたIKEA会長もなかなかクセ者で、犯行声明の段取りや戦略を提案。なおかつ監禁場所への移動は夜間より日中の方が目立たないと冷静に分析。主人公と家出少女にIKEAの企業理念と戦略を説き、お腹空いた、嗅ぎタバコを買ってきてくれ等、誘拐を楽しんでいる様子。一度逃亡するが「最近これほど興奮することはなかった」とはしゃいでいたのにも笑ってしまう。ちなみに主人公を「ショーベルグ」と呼んでいるが、これはIKEAの暴露本を書いた元IKEA幹部の名前。
境遇が違う二人だが、各所に人生の理念や思いが交錯するのが印象的。主人公の体に染みついた家具用ワックスの匂いをIKEA会長が最高級品と推測する、お互い趣味もなく仕事にまい進してきた人生など共通項があり、同種の人間味を感じた。二人で氷の張った池に落ち込み、ギャーギャー喚きながら家出少女に救出してもらい、体を温めるためにお互い抱き合って暖をとるなど、妙な仲良し感があったのも笑ってしまう。
その二人の間に入っているのが家出少女。彼女が一番冷静に行動しているが、過去の栄光に囚われた元新体操選手のアル中母の面倒を見ており、夢も希望も持てない諦念が見られる。それでも母を心配する優しい情愛を見ることができた。
北欧の白い雪景色を背景に二人の老人のドタバタ誘拐劇が繰り広げられる。誘拐犯の主人公が、被害者のIKEA会長の振り回されているのが観ていて楽しい。しかも年齢を経た二人。それぞれの哲学や人生からの含蓄、優しさを感じ取れる。
主人公の老人は店や妻を失ったことの苦悩を抱えていたが、IKEA会長も同じように後継者や中傷、暴露に悩んでいた。最後の方は自棄を起こしかけるのも、立場は違えども結局は主人公と同じ気質なんだなとしみじみしてしまう。
調べてみるとこのIKEA会長、実名だそうだ。フィクションなので実際の人物像とは違うが、ここまでの変人っぷりに描くのによくOKしたなと思う。メディア戦略に長けた人物だったらしいのでその一つなんだろうが。
お仕着せがましい人生訓や、人のため云々という職業哲学を訴えることはない。二人のジジィがその人生を交錯させた、優しさにあふれている作品。間合いや速度のある日本のモノやブラックでエスプリの効いた米英のモノとは違う、ゆったりとした空気が流れるコメディだった。

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