ノー・セインツ 報復の果て

ノー・セインツ 報復の果て(アメリカ:2022年)
監督:アルフォンソ・ピネダ・ウジョア
脚本:ポール・シュレイダー
出演:ホセ・マリア・ヤスピク
  : ニール・マクドノー
  :ティム・ロス
  :シャニン・ソサモン
:ロン・バールマン
 
マフィアの拷問師と恐れられた男が冤罪を証明され、死刑が取り消されて出所してくる。かつての妻は裕福な不動産商に囲われており、息子に会うことを拒まれるが、町を離れることを決めた男は最後に息子に会い、言葉を交わすことができた。町を出ようとする彼は恨みをもつ警官たちの報復やギャングどもに襲撃されてしまう。さらには元妻と再燃してしまった事実を不動産商、実は非合法な取引を扱うメキシコマフィアにバレてしまい、妻は殺され、息子は誘拐されてしまう。男は息子を取り戻すべく、不動産商を追い始める。それも何か陰謀がありそうだが。
のっけから女性に暴力を振るう主人公の男が描かれる。殴るだけではない。両手にナイフを突き立てテーブルに固定するような、観ていてドン引きする映像。さらに物語が進むと主人公は武器商人の愛人を射殺する。そしてそして主人公を助けてくれるバーの女バーテンはメキシコマフィアにボコボコにされたり、年端も行かない少年も悲惨な拷問を受ける。血が派手に飛び散るほどではないが、弱者をいたぶる映像は観ていて本当につらい。かといってマフィアどもが血祭りにあげられてもいいのかというが、それもかなり無慈悲な殺され方をされるので、アクションよりバイオレンスの方が目につく。主人公は拷問師と呼ばれるほどの男なので、もちろん拷問シーンもある。レパートリーは少ないが身の毛もよだつエグいシーンなので眼をそむけてしまうほど。ここまで丁寧に描かんでもいいのに。
映像もアメリカ南部の虚飾に満ちた薄っぺらい派手さに物悲しさを感じた。主人公の苦難に満ちた境遇を反映しているようで、更に悲しさが増してくる。そこからストリップバーの女バーテンの協力を得て、メキシコに入ると途端に明るさを増し、ここから惨劇が始まるボルテージが高まってくる。町のざわめきはより喧噪的になり、女性バーテンは大胆に行動し、男は静かに戦いに備えていく。ここらのメリハリはなかなか。
ただキャストには魅力が乏しく、主人公の拷問師だった男は寡黙なあまり何を考えているのかが表情や演技からは分かりにくい。元飛び込み選手のスキンヘッド俳優のような圧倒的な強さはないので、結構ボコボコにされる。恨みを持った連中から襲撃されて生き残れるのは何かなぁと疑問に思えてしまうが、手練れでもあるのでアクションシーンの立ち回りはそれなりに見える。身体には十字架のタトゥーを彫って、神を信じているかのような信仰心の厚さもあるようだが、それがキャラクターに反映されていない。いで立ちはいかにもメキシコのだて男っぽいんだが、主役に座るには今一つ個性が弱く見えた。
その中でも魅力的に光ったのが、主人公を助ける女性バーテン。訳アリの主人公を察して、乱闘が大事にならないようにさりげなくサポートしたり、報酬に釣られたのかと思いきや、身体を張った偵察など献身が素晴らしい。でも後半は足を引っ張ってしまい、これまた情け容赦ないマフィアにボコボコにされて泣き叫ぶだけの存在になってしまっているのが残念。リアルと言えばリアルなんだが、か弱そうな女性が知恵と度胸で悪人を撃退するのが映画の花なんだがなぁ。
物語全体にチープさを感じるが、派手さ控えめで後半に盛り上げていく手法はなかなかとは思う。あくまでもB級ノリでラスボスの唐突な登場とこじつけ的な因果関係も見られるが、作品の作り方をよく理解していると思われる。ただ演出は地味で高揚感が乏しく、中途半端にリアルを取り入れているから爽快感が乏しい。変にエロも入れなくてもいいとも思う。そして救いようのない物語。復讐は惨劇の連鎖しか生まないということが言いたいんだろうが、それはサスペンスやドラマのジャンルのもの。アクション作品は爽快感あってほしいんだな。

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