きさらぎ駅
きさらぎ駅(日本:2022年)
監督:永江二朗
配給:イオンエンターテイメント、ナカチカ
出演:恒松祐里
:本田望結
:佐藤江梨子
:莉子
:瀧七海
有名インターネット掲示板から生まれた怪談を映画化した作品。実際の鉄道会社が出てくるので大丈夫なのかなと思いつつも、無限ループの陥穽に落とし込まれる恐怖と安っぽいCGがいい味出してくれて意外にも飽きずに観られた。
主人公の女子大生は神隠しをテーマに、七年前きさらぎ駅というどこにも存在しない駅に迷い込んだ元教師の女性に聴き取りをする。その女性が語るきさらぎ駅の異様さとそこからの脱出、そして置き去りにしてしまった女子高生への悔恨などを聞き、女子大生はそのきさらぎ駅へとたどり着く方法を発見する。その方法を使って女子大生はきさらぎ駅へと向かう電車へと乗り込むことができた。車内には元教師が語っていたようにチンピラとギャルとパシリのような若者三人組と、酔いどれの中年サラリーマン、そして元教師が語っていた女子高生がいた。とうとうきさらぎ駅で下車してしまった全員は怪異に襲われ始める。女子大生は元教師から聞いていた情報を元に行動し、被害を最小限に抑えつつ先導して一行を脱出へと向かわせるが、それでも怪異は容赦なく襲ってくる。女子大生は元の世界に還ることができるのか。女子高生も還ることができるのか。そしてこの怪異はいつまで続くのか。
主人公の恒松祐里に期待していた。視聴していないが、ネットドラマでかの有名なAV女優を体当たりで演じて評価が高く、それ以後も活躍を聴いていたので、これは有望な俳優が現れたと期待して観た。主人公のキャラクター性としては弱いものの、腹の座った雰囲気と意志の強そうな顔だちで、怪奇に立ち向かう演技がなかなか好印象。チンピラを蹴り飛ばして危機を回避したり、怪異を岩で殴りつけるなどなかなかインパクトを与えてくれる演技も勢いがあり、これから大きな飛躍を感じさせてくれる。きさらぎ駅の事前情報があるため、異変に対して冷静に対処できるが、落ち着き払って動くので恐怖を感じさせてくれないのが難点。冷静さに行動力がありすぎてギャグに見えてくるんだな。
物語としては世間で知られている怪談きさらぎ駅の後日談。その時の主人公が冒頭自身の体験を語る。そのキャストが佐藤江梨子。スタイルと姿勢の良さは健在だが、憔悴した表情が印象に残る。とつとつと、時には涙を浮かべて自身が体験した恐怖を語る。異世界では女子高生と手を取って怪異と対峙して、迫真の奮闘も見せる。彼女が現実の世界に戻ってきたことで、きさらぎ駅の存在が示されるのだが、自分一人だけ脱出して女子高生を置き去りにしてしまったことに深い後悔を感じている。そして彼女が語る経験も大きな隠喩ともなる。
きさらぎ駅の異世界に囚われた女子高生役の本田望結はキャラクターによく似合っていた。真面目で人思い。困っている人を捨てておけず、元教師が窮地に陥った時は身を挺してかばう。よく考えたら当時はJKだったろうか、年齢と役があってよく演じられていたと思う。
さすがに怪談そのままを映画化するには動きが足りなかったんだろう、その後の恐怖談として作品を作ったと思われるが、怪異の内容はやはり作為的なものを感じる。特にCGは安っぽく、なんじゃこりゃと思わせてくれるほどの出来だが、90年代から00年代かけての邦画ホラー、いわゆるJホラーでは多用された質感なので、ちょこちょこ見ていた自分にとっては懐かしさを感じる。でもこれを2020年代に観ると安っぽさが目について、反対に笑えてしまうのが非常に残念。特に化物や怨霊、殺人鬼が出る訳でもないので、もう少し怪異現象にアイデアを出してほしかった。
このきさらぎ駅へ飛ばされる怪異現象は長い年月をかけて何度も何度もループしている様子。なので同じ人物が何度も繰り返し怪異にさらされており、そこから抜け出す方法がカギになっている。そこも大きな要素となっているが、それを後付け説明されても釈然としない。ラストは続く怪異に戦慄は覚えても、映画を観終えた爽快さは弱く感じる。それでも通信技術の発達のさなかを過ごした者としては携帯電話からスマ-トフォン、そして動画配信と怪異現象が時代を映していたのがおもしろかった。そのうちAIを使った怪異現象もできるに違いない。