トロピックサンダー/史上最低の作戦
トロピックサンダー/史上最低の作品(2008年:アメリカ)
監督:ベン・スティーラー
配給:ドリームワークス
出演:ベン・スティーラー
:ジャック・ブラック
:ロバート・ダウニー・Jr
:ブランドン・T・ジャクソン
:ジェイ・バルチェル
もう不謹慎の応酬。出てくる出演者がみんな不謹慎でブラックな笑いを巻き散らかす、ベン・スティーラー監督によるベン・スティーラー主演のアクションコメディ。
トロピックサンダーという映画を撮影するため、撮影班は東南アジアでロケをしていたが、俳優たちは自分勝手で統率が取れない。監督がブチ切れてジャングルの中でゲリラ的に撮影をしようとしたが、彼らは実際のゲリラが活動する危険地域へ迷い込んでいた。五人の俳優たちの運命はいかにというストーリー。
公開当時は2008年。この頃はまだ差別的な表現にはまだ寛容だったのか。劇中、知的障害を揶揄するセリフや黒人に対する視点、ドラッグ中毒者の表現にアジア人への偏見等々、ふんだんに出てくる。いちいち目くじらを立てては観ないが、え?と考えてしまうセリフや表現、演技演出が出てくる。学生時代にこの映画を観たらゲラゲラ笑っていたのだろうが、今観るとげんなりしてしまうシーンがいくつもあった。地雷で木っ端みじんになった英国人監督の生首を弄んで蹴り飛ばすのは笑えなかったし、ゲリラの表現もステレオタイプで同じアジア人としてイラっとした。オレも保守的になったもんだ…。
それでもベン・スティーラーが監督・主演を務めるだけあって笑いどころが押さえられている。頭から映画の撮影と信じ切って、ゲリラが活動する危険地域で一人空回りする姿はやはり滑稽。キャリアに苦労する落ち目のアクション俳優をその持ち前の明るさと、どこか漂う苦悩を抱えて痛快に演じていた。顔の演技以外にも身体も鍛えていたので、常に役者魂を忘れない姿勢がうかがえる。
その対極に位置するのがロバート・ダウニー・Jr演じる大物演技俳優。オスカーを5度受賞したこともある名優だが、役への追及しすぎと私生活のだらしなさが問題に。劇中では白人なのに黒人になる手術を受けた役者バカ。でも一番冷静で状況を把握しており、事態が映画撮影でないことに気づく。役になり切っているは現実のロバート・ダウニー・Jrも同じのような気が。でも世界の名探偵や動物と会話できる獣医師、鉄男CEOよりも、不謹慎ネタやってる姿はなんか楽しそう。
ジャック・ブラックは顔と表情だけでもう不謹慎。麻薬常習者の下ネタコメディアン役で、放屁のギャグが持ちネタ。一番身勝手で喚き散らしては、ヤクが切れて吐いて禁断症状が悪化する。最後には彼の葛藤が垣間見られるが、こういうの卑小だけどやたら人間臭い演技を観るとやっぱりジャック・ブラックも名優なんだよなぁ。
公開当時話題の一つになったのが、やっぱりトム・クルーズ。本人からほど遠い特殊メイクを施して高圧的な映画プロデューサーを演じていたが、気づかなかった。事前に知っていたのに。オンライン会議を通じてスタッフに監督を殴る指示をだすのはブラックだが、小気味がいいので笑ってしまった。ダメなんだけど。ただその眼力はやっぱりトム・クルーズ。汚い言葉をマシンガンのようにまくしたて恫喝する姿にも笑ってしまったが、迫力があるし、流れるようで聞いていて楽しい。そしてエンドロールの怪しいダンスにも笑った。ノリノリで演じてたので、たぶん本人は楽しかっただろうな。
その他、トビー・マグワイア、ジェニファー・ラヴ・ヒューイットやジョン・ヴォイト等々もカメオ出演している。無駄に豪華。
過去の戦争映画のパロディがあり、特にベトナム戦争モノの借景が多い。それを茶化していることはなく、きちんと取り込んでいることに過去の作品への尊敬を感じた。コメディはコメディだが、映画作りは真剣に取り組んでいる姿勢が感じられる。
もうここまでのブラックな笑いを追求したコメディは作るのが難しいだろうなと思いつつ、年齢を重ねてどんどん保守的なる自分を再発見してしまうという、変わった視点を持つことができてしまった。
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