ウインド・リバー
ウインド・リバー(アメリカ:2017年)
監督:テイラー・シェリダン
脚本:テイラー・シェリダン
出演:ジェレミー・レナー
:エリザベス・オルセン
:グラハム・グリーン
:ギル・バーミンガム
:ケルシー・アスビル
アメリカの雪深い地域。ハンターを営む主人公は害獣駆除の仕事のため、離婚した妻の実家があるインディアン居留地へと向かう。雪山で肉食獣の足跡を追っていると、近隣のネイティブアメリカンの女性の死体を発見。直ちに地元警察に報告すると、警察署長は人手不足からFBIに応援を依頼する。やってきたのは新人の南部生まれの女性捜査官ただ一人。雪山を知らない彼女の軽装に呆れつつ、検死の結果女性にはレイプされた痕が見られるが、直接の死因は冷気による肺出血による窒息死と判明。FBI捜査官は他殺でなければFBIが関われないと怒りを表し、何としても事件を解決しようとハンターに助力を求める。捜査を進めるうちに更に死体が発見され、事件は人が抱える暗部を垣間見せることとなる。
主演のジェレミー・レナーは好きな俳優の一人。悪役や癖のある人物の役とかが多いけど、確かな演技力と内面心理を考えさせる佇まいが印象的。自分の中の正義に忠実な感じがいい。今作も娘を失い、妻に離婚され、息子とも離れて暮らすこととなったしまった男の役だが、悲しみを背負いながら決してそれを下ろさない、あくまでも自分の業として生きていく男を演じていた。娘を殺されたネイティブアメリカンの父に寄り添って、死について語るシーンはこの作品の中で一番の見どころ。しかし語らいの終わりには自身の正義の遂行、もしくは自然の報いを受けさせるという強いメッセージ性を感じた。切れのあるアクションは少ないが、スノーモービルの運転や銃の取り回しなど、一つ一つのアクションを大事にしている様子が見て取れる。
アメリカの雪深い地域で、しかも気温がマイナス環境下の物語ということで自然の厳しさがひしひしと伝わってくる。冷気を吸い込むと肺が凍り、血が噴き出して窒息するなんて初めて聞いた。苦しいのか、痛いのか想像を絶する。白い世界は決して人間には優しくない。その中でネイティブアメリカンたちは狭い居留地に押し込められて、どうにもこうにもすることができない苦しさを感じた。かつてのような狩猟もできず、国からわずかな補償を受けて暮らしている。若者は何もすることがなく、無軌道にドラッグで遊ぶ。ネイティブアメリカン出身の主人公の元妻は職を求めて南部へ移り住もうとしている。年配者はこの地で暮らすことを選ぶが、若者にとっては何もすることもできない土地。日本の地方もよく似た現状だが、ネイティブアメリカンという境遇が更に悲壮感を増す。ラストに流れたテロップに彼らが置かれている悲惨な状況に深く心へ突き刺さる。
物語としてはミスリードを誘う演出やトリック、人間関係の複雑さなどはない。死体があり、操作を進めていくうちに新たな死体を見つけ、事実と関係性を繋いで犯人へと導かれる一直線のストーリー。あまりにも簡単に操作が進むので物足りなさを感じるが、その間に差し込まれる人間模様がたまらなく重い。主人公の境遇や姿勢は前述したが、娘を殺されたネイティブアメリカンの父の存在が心を打つ。FBI捜査官が事情聴取に訪れた際は超然とした冷静さで対応したが、友人の主人公から悔やみの言葉を聞くと悲痛な表情へと変化するのが辛い。終盤では死化粧といって自身の顔を青く塗っていたが、彼自身もネイティブアメリカンの伝統を知らず、おそらく先祖もこうするだろうといった、アイデンティティを奪われた人々の辛さも感じた。彼の心と、グレた息子との絆の再生を願わずにはいられない。
事実を元にした物語らしく、実際こんな犯罪が起きていたことにゾッとする。法治国家であるはず国で、人権を無視した犯罪が起きていることに憤りを感じた。その犯人が応報を受けるのはカタルシスを感じるのだが、犯罪者を裁くのは自然ではなく、人が拠り所とする法でなければならないとオレは思っている。なのでラストはうーんと考えてしまうが、ジェレミー・レナーが持つ、オレはオレが信じる正義を行使するのみという雰囲気には合っていたのかも。事故で大けがを負ったとのことだが、リハビリ中ということなので、回復と復帰を祈っている。