ナイト・ウォッチャー

ナイト・ウォッチャー(アメリカ:2020年)
監督:マイケル・クリストファー
脚本:マイケル・クリストファー
出演:タイ・シェリダン
  :アナ・デ・アルマス
  :ジョン・レグイザモ
  :ヘレン・ハント
  :ジョナサン・シェック
 
コミュニケーション障害があるホテルマンの主人公が殺人を窃視した後、その事件の人間関係に関わっていく静かなサスペンス劇。エキセントリックな主人公の思考と動き、隠しカメラからちらっと見える人間模様、人の愛憎が入り乱れて本格サスペンスの要素盛りだくさんだったが、いかんせん序盤から間延びを感じて飽きを感じるのが早かった。
ホテルマンの自閉症スペクトラム障害を持つ主人公は、自身が働くホテルの一室に隠しカメラを仕込んでいる。宿泊客の言動を観察しながら、自身のコミュニケーションのストックとして学習していた。ある夜中年女性が一人で宿泊。例の部屋へ案内した後、自宅で映像を観察していると誰かと言い争いをして、ケンカとなっている。拳銃が出てきたのを見て、彼は急いでホテルへ駆けつけるが、中年女性は射殺されてしまっていた。疑いを避けるため彼は室内の監視カメラを撤去したが、一台だけ撤去し忘れてしまう。その後警察に事情聴取された彼は少々の嫌疑をかけられ、ほとぼりを冷ますためか支配人から別のホテルへ異動を命じられる。そのホテルへ若い女性がチェックインし、彼女と親しくなっていく主人公。それと同時に先日の殺人を巡って静かに事態は動き始めていた。
主人公のキャラクター性はよく考えられており、障害を誇張することなく世間での生きづらさを表現し、彼らが持つ純粋さをありのままで表現していたのが見事。表情を変えず、瞬きも少なめ。朴訥に話していたかと思えば、パニックに陥ると急に早口まくしたてて狼狽する。外に見えない障害だから、周囲も理解していても関わり方に苦心している様子も描かれる。ひどい話になるが、内面の障害に対してどれだけ理解していても、日常生活ではみんなこんな対応になる。そんな彼が、若い女性との出会いを通じて心が通じ合い、自分をよく見せたい欲求が出てくるので、同じ男として共感ができる。少しの出会いが大きな変化を生み出すのは誰にもあることのはず。
彼がコミュニケーションの学習ためと言って隠しカメラを客室に仕掛けているが、その映像が断片的に人の愛憎を映し出し、更には悲劇を見せつけているのが印象的。その昔サスペンスの大巨匠の窓の名作に似たような人の生き様を垣間見ることで何かよからぬことをしているような気になる。凶行を観た時、彼が何を思い、そしてどう行動したのか、若い女性との出会い以外にも変化があったのがラストに向かって明かされていくのはなかなかスリリングでもあった。
ただ、大きく物語を動かすわけでもなく、サスペンス的なハラハラさせてくれる展開が少ないので、序盤から物足りなさを感じる。主人公がアクション向きのキャラクターではないので、派手に立ち廻ることもなければ、激情や焦りを見せることもなく、淡々と前半部が過ぎていくので飽きを感じてしまった。リアリティがあるだけストーリーがドラマティックにならず、期待したほどのおもしろさを感じなかった。これは残念。
物語の鍵を握るホテルに宿泊する若い女性役のアナ・デ・アルマスは非常に魅力的。名前と容姿からヒスパニック系のようだが、ラティーナ特有の俳優のような激しく情深い雰囲気はなく、どこか陰のある悲しさをたたえた表情で、登場から訳アリの香りを醸し出している。彼女の境遇、主人公と同じ精神に障害を持った弟のこと、断ち切れない悪い関係など人生に疲れてきている姿をよく演じている。身体を張ったこともしてくれているので更に好感を持ってしまった。不純な意味ではない、不純な意味では。
その他キャストが誰も重厚で人間模様を描き出す俳優ばかりで、演技に関しては見ごたえがある。特にジョン・レグイザモの刑事はハマっている。ヘレン・ハントも過保護気味な母を演じているが障害を持つ主人公を大切に愛している表現を感じさせてくれた。
もっと登場人物や事態が動いてくれれば、物語にグッと惹きこまれたんだろうが、静かすぎる展開で序盤から飽きてしまうのが難点。最後の展開もそこそこ驚かせてくれるが、裏切られ方が弱い。あちこちに伏線とミスリードを張り巡らせば、感動的に裏切ってくれただろうと思う。もう一つ、あとわずかに何かが足りなかった残念でしかならない。

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