本と惣菜-2 『河合隼雄 物語とたましい』
顔が肌荒れしていたので軟膏を探していると、後ろから妻に声をかけられた。
「あー、最近、お味噌汁つくってなかったもんねえ」
すぐに返事ができなかった。なんてことだ。ウナコーワやムヒアルファと同じ選択肢のなかに、当たり前の顔して味噌汁が割り込んでくるなんて。
STANDARD BOOKSシリーズの「河合隼雄 物語とたましい」という本のなかに、不登校の子供たちが多く通う、全寮制高校の話がある。
河合さんによれば、いまは飽食の時代ではあるものの、足りていないものがある。それは心の栄養。つまり最近の子供たちは「心のこもった味わいのある食事を食べる機会が少ない」のでは、と指摘する。
前提にそんな共通認識があったのだろう。
件の全寮制高校では新たに厨房係を探し出し、食事を用意するだけではなく子供の食べっぷりも観察してもらった。そして職員会議にも出席してもらい、数学が不得意などという話題に並べて、あの子は食欲がない、食べるスピードが速くて味わうことをしない、ということなどを取り上げて対策を講じた。すると子供たちの生活態度がみるみる好転したという。
河合さんは言う。
「この話は不登校などということを超えて、現代に生きるわれわれすべてに対して、反省すべき点を提示している」
そう。私も素直な気持ちで自らを省みたのだ。
私は、普段の食事をいかに無自覚に頂いているのだろう。発酵食である味噌の効能うんぬん、という話ではない。食事をつくる人の、食べてくれる人に対する心づかいを、私はきちんと「味わおう」としていただろうか。
その日から味噌汁が続いた。
そして、私の肌あれは治った。
どんな栄養のおかげか。
そんなことに科学的な根拠はいらない。
日々の「味わい」のなかに私が自ら見つけだすことも、ひとつの本当だろうから。