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郊外にある、たべものや店主。お仕事するなかで感じるあれやこれを色々に綴っていこうと思っ…

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郊外にある、たべものや店主。お仕事するなかで感じるあれやこれを色々に綴っていこうと思っています。

最近の記事

本と惣菜-3『人類学者のレンズ』

人類学者・松村圭一郎さんの『人類学者のレンズ』に出てくる、エチオピアにおける家事の連携プレーの話が好きだ。 朝、農家の女性たちが家族総出でコーヒー豆の選別作業をしている。 ぼつんと居間に置かれた赤ん坊は、歳の離れた兄弟が可愛がっているが、気がつけば遊びに行ってしまっている。 代わりに面倒をみるのは祖母。祖母が出ていくと今度は隣家の女性が来て、しまいにはフィールドワークで村に訪れている松村さんがあやしたりもする。 お昼ごはんは外で遊んでいる子供たち全員に振る舞われ、食べ終わる

    • 本と惣菜-2 『河合隼雄 物語とたましい』

      顔が肌荒れしていたので軟膏を探していると、後ろから妻に声をかけられた。 「あー、最近、お味噌汁つくってなかったもんねえ」 すぐに返事ができなかった。なんてことだ。ウナコーワやムヒアルファと同じ選択肢のなかに、当たり前の顔して味噌汁が割り込んでくるなんて。 STANDARD BOOKSシリーズの「河合隼雄 物語とたましい」という本のなかに、不登校の子供たちが多く通う、全寮制高校の話がある。 河合さんによれば、いまは飽食の時代ではあるものの、足りていないものがある。それは心の

      • 本と惣菜-1『人体、5億年の記憶』

        いまお店で出しているドリンクに、〈ムーンティ〉というシリーズのハーブティがある。 新月、上弦、満月、下弦の4種類があって、月の運行に合わせた異なるブレンドを楽しむことができる。 これがなかなか好評だ。でも考えると、すこし不思議でもある。 たとえば、喉が気になるからミントですっきりしよう、といった身体への個人的な動機がここにはない。なにしろ配合の根拠は月の満ち欠けなのだ。体調が異なる人同士でも、おすすめは同じになる。 にも関わらず、飲み終わると満足感がある。納得感と言って

        • そこにないものを味わう

          鮭に醤油で下味をつけ、片栗粉をまぶして揚げる。私たちのお店では、ここにキノコのあんかけを乗せて秋らしいおかずっぽく仕上げています。このキノコをかける前、いわゆる「竜田揚げ」を見るたびに、私はいつも不思議な気分におそわれるのです。 そもそもの語源としては、白っぽい粉と醤油の赤みがかった色の組み合わせが、紅葉の名所として歌枕にもなっている竜田川を思い起こさせる、というところから。たしかにそのコントラストは綺麗ですし、充分に季節を感じさせてくれます。 しかしよく考えてみると、私

        本と惣菜-3『人類学者のレンズ』

          お店で「働く」という喜び

          毎日お店に立っていると、たくさんの楽しいことに囲まれつつも、何だか追われるような気分になることもあります。 それは例えば開店時間。予約が入っていればなおさらですが、かならず間に合わせるようにおかずを揃えます。その日の天気、冷蔵庫の中身、スタッフの人数なども考え、メニューの内容や量も調節します。そして、ようやく開店を迎えたと思ったら、次に考えるのは翌日の仕込みです。 自分でやることを増やしておいて、常にそれに追われているような、客観的に見ればおかしな状況です。とは言え、あま

          お店で「働く」という喜び

          ふつうのマーボー

          新しいメニューについて妻と話していたら、面白い提案をしてくれました。 「なんかさ、普通の麻婆豆腐やりたいなあ」 なるほど、あれか。と私はすぐ頭に思い浮かびました。本場っぽい花椒が効いた辛いやつでもなく、いわゆる町中華のそれでもありません。ごろごろ豆腐とひき肉のシンプルな炒め煮です。 とくに私の家で、その料理を麻婆豆腐と呼んでいたわけではありません。ふだんの食卓にならんでいる、名前のないメニューのひとつです。 もちろん一緒に暮らしている私になら、麻婆豆腐と言えば伝わるだ

          ふつうのマーボー

          山の掌の上で食む

          山に登るのが好きです。もっぱら低山ではあるのですが、下山した後の気持ち良さは何にも変え難く、すぐに次の計画をしては楽しんでいます。 何が好きか、と聞かれたら、まず思い浮かぶのがご飯です。 荷物の奥でひしゃげてしまったおにぎりの美味しさたるや。先日、山に登ったときに、仲間とこんな話題になりました。お湯で溶かせば出来上がるフリーズドライのスープが、なぜこんなにも美味しく感じられるのか。 たしかに最近のフリーズドライは、モノ自体が本当に美味しいのです。ただ、山の上で感じるのは

          山の掌の上で食む

          合理的もほどほどが美味しい?

          美味しくなあれ、と呟きながら鍋をかき回す。料理をする人はこうあってほしいな、と思ってしまう理想の姿です。なのですが、私はある人の言葉で、この価値観がぐらりと揺らいだ経験があります。 それは有名な女性料理家です。ある本で引用されていた言葉で、前後の文脈は不明ではありますが、彼女はこう言われたそうです。「愛情で料理が美味しくなったら誰も苦労しない」と。 美味しくなるには確固たる理由がある。失敗や挑戦を繰り返し、その原因と結果を明らかにする努力を怠るべきではない。こうした料理へ

          合理的もほどほどが美味しい?

          包丁と、私と野菜と

          定期的に包丁を研ぎます。開店から使い続けているので、少しずつ短くなって来ているはずです。感覚的にですが、ステンレスよりも鋼の方が減りが早い気がします。私たちのお店ではまちかんの菜切と木屋の三徳が鋼で、ほかのと比べても目に見えて小さくなってきています。 小さくなれば使いにくくなりそうなものですが、そんなことはありません。むしろ、ステンレスより使いやすいのか、スタッフもまず手に取る道具となっています。 これはどうしてでしょう。 購入した時の長さや薄さは、職人がこれだと決めた

          包丁と、私と野菜と

          AI時代の美味しいとの付き合い方

          近ごろ巷では、AIの話で持ちきりです。新しい技術が出てくると、私はまず警戒をしてしまいます。そのくせ、まだ見ぬ未来の姿がいきいきと語られ出すやいなや、すぐ無防備に心躍ってしまうタイプでもあります。ですから今回も、ドキドキとワクワクを行き来しながら、頭の中がぐちゃぐちゃになるのを楽しんだりしています。 ともあれ、生成AIがインターネット登場以来の大きな技術革新であることは間違いないのでしょう。これまでも自分にマッチした情報を自動的に受け取ったりしていたものの、それはあくまで誰

          AI時代の美味しいとの付き合い方

          料理を、どう評価するか

          フィギュアと料理は似ている?! フィギュアスケートや新体操など、いろんな採点競技を観ていると、ふと思います。私がやっている毎日の仕事となんか似てるところがあるなあ、と。もちろん世界レベルの美しさが似ていれば一番良いのですが、私が感じてしまうのは演技への取り組み方やその評価の仕組みなのです。 レシピには著作権がありません。店ごとの秘伝のタレといった企業秘密とは別の話です。例えば私がブログにレシピを公開し、それを誰かが真似したって文句を言う筋合いのものではない、ということです

          料理を、どう評価するか

          オナカマを増やしたい

          どこまでが同じ釜か? 同じ釜の飯を食う、という言葉があります。このとき食べているメンバーを想像してみてください。きっと家族ではないでしょう。一緒に暮らす親や兄弟に対して、同じもの食べてるから私たちは似ているね、などとはわざわざ確認しないからです。 私たちのお店では、毎日15種類ほどのおかずを用意します。スタッフも一生懸命です。開店時間までになんとか作りきって、お客様を迎え入れます。そしてお昼の時間が過ぎた頃、自分たちもお昼ご飯として残ったおかずをいただきます。来る日も来る

          オナカマを増やしたい

          家庭料理を商う

          何料理のお店なの? 何料理か?お客さまによく聞かれます。たしかに分かりにくい店なんです。並べてあるおかずを自由に選んで、テイクアウトもイートインもできるのですが、周りにはそういうお店も少ないですし、イメージがわきにくいのも分かります。そもそも飲食じゃないと思われている方もいらっしゃるくらいで。おかずだけじゃなくて、食に関する物販商品も多く並べているからかもしれませんね。 いずれにせよ、よく聞かれるんです。そしていつも、パッと答えられず、一瞬、答えに窮するのです。そして、こ

          家庭料理を商う

          たべものや、食べるを考えてみる

          さてさて。ひとりのお客さまがご来店されました。店内のご利用を考えているようです。並んだおかずを端から端まで、じいと眺めています。 ここは「たべものや」です。 ドアを開くと、まず目に飛び込んでくる大きな平台。その上にたくさんのおかずが並んでいます。お客さまはその日の気分に合わせておかずを選び、家に持って帰ることも、定食としてその場で食べることもできます。おかずは数日ごとにガラリと変わるので、来なれている人であっても迷う時はなかなか決まらないのです。 お客さまはまだ悩んでい

          たべものや、食べるを考えてみる