【ガチ答案】令和6年予備試験(憲法)
The Law School Timesの企画に参加しました
2024年9月7日(土)から8日(日)にかけて、令和6年予備試験の論文式試験が実施されました。
その2日前の同年9月5日(木)の夜、LSタイムスの晋川さんと懇親会をしていたら、この企画に誘われたので、喜んで書いてきました。
行政法のガチ答案はこちら
問題文
ガチ答案(憲法)
第1 小問⑴
1.A町内会が祭事挙行費を町内会予算から支出すること(以下「本件支出」という。)は適法か。憲法89条、20条1項、同3項は政教分離原則を定めているところ、A町内会は任意団体であり予算から支出しても「公金」にあたらず(89条)、「国及びその機関」(20条3項)にもあたらない。この場合にも、政教分離原則の適用があるのかが問題となる。
⑴ この点につき、A町内会は「地縁による団体」(地自法260条の2)であるところ、生活道路・下水道の清掃、ごみ収集所の管理の他、B市の市報の配布等を行っており、住民生活にとって不可欠なものである。実際に、A集落の100%が加入している。
しかし、同条6項は、地縁による団体を「公共団体その他の行政組織の一部とすることを意味するものではない」と定めており、その公権力性を否定している。実際の事業も、単なる事実行為にすぎず、公権力と同視することはできない。
したがって、「地縁による団体」たるA町内会に憲法が直接適用されることはない。
⑵ もっとも、憲法は、公権力と同視しうる場合に類推適用すべきという見解もあるが、本件ではA町内会を公権力と同視することもできない。また、判例は、憲法が公権力と国民との間を規律するものであることを理由に、こうした類推適用は否定している。
2.他方、判例は、こうした私人間における憲法の適用は否定する一方で、場合によっては、立法措置や民事法の一般条項の解釈を通じて、憲法条項の趣旨を読み込むことは否定していない。
本問においては、本件支出が任意団体たるA町内会の目的の範囲(民法34条参照)といえるかが問題となる。
⑴ 目的の範囲の解釈は、会規約の定めから合理的に解釈すべきである。しかし、A町内会は、上記のとおり加入率が100%であり、人口170人と少ないうえ、市民生活のとって重要な事業を行っているため、事実上、強制加入団体と同視し得る。そのため、目的の解釈にあたっては、脱退の自由が事実上ないことから、限定的に解すべきである。判例も、法律上の強制加入団体である税理士会の目的を限定的に解している。
⑵ たしかに、C神社は、A集落の中心となっていたものであり、宗教法人でもなく、氏子名簿もないから、宗教上の組織という側面は乏しく、世俗性があるといえる。また、火事で神舎建物も失われており、外形的には集会所内に御神体が安置されているにとどまる。神職も常駐せず、人々の交流や憩いの場となっている。
しかし、集会場の入口には「C神舎」と表示されていること、御神体が安置されていること、鳥居も設置されていることから、外形上、神道とのつながりがあることは明らかである。また、本件支出は、C神社の祭事挙行のためのものであるところ、これは年2回、宮司が祝詞をあげる神道方式の神事、その一環として伝統舞踊が行われるため、明らかな宗教上の儀式といわざるをえない。仮に、住民のほとんどが祭事をA集落の年中行事として考えていなくとも、こうした宗教性が希釈されることはない。
他方、A町内会の規約によれば、その目的は「会員相互の親睦及び福祉の増進」や「地域課題の解決等」に取り組むことにあるところ、その事業としても、清掃、防災・防火、住民相互の連絡・広報、集会所の管理運営にとどまり、必ずしも宗教的行為を伴わない形で運営することで、目的達成は可能であるといえる。
⑶ したがって、本件支出をすることは、A町内会の目的の範囲内とはいえず、これを支出することはできない。
第2 小問⑵
1.仮に本件支出が可能であるとして、町内会費8000円を一律に徴収することはできるか。上記のとおり、A町内会に憲法は直接適用されないが、このような徴収方法が公序良俗(民法90条)に違反するかが問題となる。
2.判例は、労働組合による政治献金が問題となった事案において、事実上の強制加入団体であること、組合員にも思想・良心の自由や投票の事由があるところ、誰に対して政治献金をするかは投票の自由と表裏をなすものであるから、これを組合費として一律徴収することは、公序良俗に反すると判断している。このことから、憲法上の権利を直接制約する場合には、原則として、私法上も違法と解すべきである。
3.本件においては、上記のとおり、A町内会はA集落で生活するために不可欠な存在であり、事実上の強制加入といえ、脱退の自由があるとはいえない。
また、本件支出をすることは、神道方式の宗教的行為に対して支援をするものであるから、神道以外の宗教を信仰する者、あるいは、信仰する宗教がそもそもない者にとって、宗教的行為への支援を通じ、その信仰を強制するものに他ならない。憲法は対国家権利として、特定の宗教の信仰を強制されない自由や、宗教的行為を強制させられないことを保障している(20条1項、2項)。そのため、本件支出を一律徴収の方式で強制することは、こうした憲法上保障された人格的利益を制約するものとして、私人間においても私法上の人格権を侵害し、公序良俗に反すると解すべきである。
これに対し、町内会側は、一律徴収としなければ話がまとまらない等と主張するが、単なる事務処理上の便宜にすぎず、上記の人格的利益の侵害を正当化し得るものではない。これにより祭事ができなくなったとしても、祭事を行いたい者が任意の支出をするべきであり、他人の信教の自由を害してまで、自らの信教の自由の保障を求めることはできない。
4.したがって、一律徴収をすることは公序良俗に反し、許されない。
以 上
感想
60分程度で終わりましたが、久々の手書きで手が痛かったです。
目的の範囲内の条文は民法34条ではなく、問題文中にある地自法260条の2第1項を使うべきでした。
A町内会は、単に事実上の強制加入団体であるということだけでなく、税理士会のように公共性があるということを指摘するべきでした。
最初に問題を読んだとき、旧司法試験平成20年第1問に似ていると感じました。
後から大島義則先生のツイートで知ったのです、元ネタ判例は佐賀地判平成14年4月12日判時1789号113頁のようです。
政教分離原則の処理手順は、①国家と宗教とのかかわり合いの認定、②かかわり合いが「相当とされる限度を超えるか」という2ステップであります。一般的には②が問題となったものが多いですが、①のかかわり合いを否定したのが自衛官合祀訴訟最判、①の「宗教」といえるのか問題になったのが空知太訴訟最大判と孔子廟訴訟最大判です。
本件は、①の検討に私人間効力の論証が組み込まれるのだなと思いました。政教分離原則を検討したとしても、間違いではないとでしょう。重要なのは、①国家と宗教とのかかわり合いの認定で悩み、検討をしたのかということでしょう。ただし、小問⑴を政教分離で検討したら、公権力による行為となるので、小問⑵も憲法上の権利である信教の自由に対する制約として扱った方が、論理的に一貫しています。
事実関係は空知太訴訟最大判と酷似しています。私人間効力と政教分離のいずれの構成であっても、祭事挙行費の法的性質が「宗教的行為」なのかの事実評価が重要なのは間違いないでしょう。空知太訴訟最大判を参考に、こうした観点から当てはめができているか、世俗性により希釈されているのか、誰を基準として判断するべきなのか(A集落の多数者か、宗教的少数者か)を意識できるとよいでしょう。このあたりの問題意識は、津地鎮祭訴訟最大判空知太訴訟最大判の堀籠裁判官反対意見が参考になります。
直後の感想については、以下のYouTubeで語っているので、ぜひとも見てみてください!
憲法の流儀で対策できます!
実は、以上の点は、憲法の流儀の講義内で解説をしているところです。
いつも「当てはめは判例学べ!」と主張していますが、基礎編第10回、憲法の流儀実践編(平成24年司法試験)の箇所では、判例の判断枠組みや当てはめを丹念に読み込み、どのように答案で表現するのかを扱っています。
予備試験の受験を考えている方には、ぜひともお勧めいたします!