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法律で実現できるなら憲法改正は不要なのか?

2020年2月8日、自民党の稲田幹事長代行(当時)が、「憲法に男女の不平等を解消する責務」を明記することで、女性議員の増加や選択的夫婦別姓に関する議論をするべきであるとの考えを示したとの報道がありました。

これに対し、複数の弁護士の方から「法律で実現できることをわざわざ憲法改正でするべきではない!」「憲法を変えたいための方便だ!」との意見表明がなされています。

自民党は、2018年3月、憲法改正4項目として、①9条改正、②緊急事態条項、③参院選「合区」解消、④教育の充実を掲げました。
条文の素案は、次のページに記載されています。

改憲4項目のうち、④教育の充実に対して、首都大学東京の木村草太教授(憲法学)も、「法律でできることをわざわざ憲法改正でするべきではない!」との主張を展開しています。

理論的にいえば、たしかに、憲法改正をしなくとも、教育の無償化も、女性議員の割当制(クォータ制)も、選択的夫婦別姓も導入することはできます。
その意味で、「法律でできることをわざわざ憲法改正でするべきではない!」との主張は、理論的には至極真っ当であり、正しいものといえます。

しかし、問題は「理論的には実現できるが、実際問題実現できるのか?」という点ではないでしょうか。

そもそも、法律を制定するためには、立法権を有している国会で議論しなければなりませんが、我が国の女性国会議員比率は、193か国中165位であり、G20諸国でも最下位です(2018年版)。

違憲審査権を有する裁判所に対して、夫婦同姓を強制している民法750条を改正しないことは、憲法13条、憲法14条1項、憲法24条に違反すると訴えを起こしても、最高裁の多数意見は、選択的夫婦別姓につき「この種の議論の在り方は、国会で論ぜられ、判断されるべき事柄にほかならない」として、国会で解決すべき問題であり、裁判所は関係ないと言わんばかりの状況です。

15人中5人の裁判官が「憲法違反」との意見を述べており、将来的には「憲法違反」とされる布石はあるものの、この多数意見に従う限りにおいて、現行憲法では「司法の場」では、この問題は解決しないのです。
最高裁からバトンをもらった国会も、自民党内では慎重論も強く、国会議員も男性ばかりあるためか、実現に向けた動きはありません。

これに対し、有権者数でいえば、男女比はほぼ等しく2019年7月の参議院銀選挙の時点では、男性は約5118万人であるのに対し、女性は約5470万人と、女性の方が若干多い状況です。

また、世の中には「総論賛成各論反対」といわれる現象が多々あるとおり、各論である「選択的夫婦別姓を導入すべき」といった議論では反対論が起こりやすいとしても、総論である「女性の差別解消をすべき」というレベルであれば合意形成をしやすいということもあるかもしれません。

もし、仮に、憲法に「憲法に男女の不平等を解消する責務」が明記されれば、それを判例変更の理由として、裁判所という司法の場での解決に道が開かれる可能性もあります。

そういった意味で、稲田氏の提案を、単純に「法律で実現できる」から憲法改正の必要はない、と言い切ることには、やや疑問が残ります。
「理論的に考えればいい」というインテリ臭い考え方だけではなく、国民全体を巻き込んだ議論をどう作っていくのかという「戦略」が大切なのではないでしょうか。


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