見出し画像

「余裕を持ってお帰りください」の怪

最近、このフレーズを聞いたことがありませんか?
ワタシは先週の金曜、土曜と、たて続けに聞いてしまった。

金曜日は激混みのJR在来線の中。
あの豪雨の中、東海地方では午前中から次々と運転休止の区域が増えていたが、ワタシの利用する区間は動いていたから、夕方まで断れない仕事をして帰路についた。
ホームに行くだけで入場制限で長時間待たされ、やっと来た電車はすでに満員。雨は激しく降り、何時運休になるかも知れない。乗らなきゃ!気合いもろとも列車に乗り込んだ。

激混みの電車は絶望的最徐行。
名古屋駅に近づいた時にくだんのアナウンスがあった。
要約すれば、あっちこっちで運休している。私鉄もそうだ。新幹線も東京方面は動かしていないぜ。でも私は(車掌さん)最新の情報を持っていない。この先乗り継ぎのお客さんは、駅についたら掲示板を見てね。
そういうお話の後に「皆さま、余裕を持ってお帰りください」が続いた。

家では腹を空かせた家族が待っている。戻ったら、いかにちゃっちゃと晩飯を作るか?あ、あのかたにメールを入れなくては。それから部屋干しした洗濯物もそのままだetc.etc.
ワタシャやること満載、とにかく急いで帰らなきゃ!と焦っている時に「余裕を持って…」だと?

このアナウンスを聞いて「どうにもならない焦りを抱えていたワタシは車掌さんの余裕を持ってのアナウンスでハッと我にかえり、落ち着くことが出来ました。(ほっこり)ありがとう」とでもなると思っているのか?

そもそも主語は何だ?
心に余裕を持てか?だったら焦らず落ち着いて行動を、で良いではないか?
激混みの列車内でうんざりだろうけど…と、くっつけてくれたらなお良いね。共感する。
時間に余裕を持てだとしたら、これは論外だ。
列車に乗る前、もっと言えば朝の段階のセリフだね。
今日は大雨でマトモには帰ることはできないよ。帰りは時間に余裕を持って早めに帰り支度をしてくださいよ。と言うことね。

怒り、疑問、絶望といろんな感情を抱えつつも疲労困憊無事帰宅。

そして明けて土曜日。
被災された方々には申しわけないけれど、豊田市コンサートホールへ行った。
素晴らしいその内容は、先日述べた通り。
感動と共に帰ろうとしたとき、またもや「余裕を持って・・・」が始まった。
コロナ全盛のころは、席の列ごとに退出するようアナウンスされることが多かったが、5類になりこの様式も変わったようだ。
豊田市コンサートホールは、10階にあり、エレベーターは数基あるけれど、ちょっと古いせいか動きが遅い。
そこで「余裕を持ってお帰りください。」のアナウンスがあったわけ。

余裕を持って・・・何に??
金曜と同じ疑問が頭の中を渦巻いている。時間か?(人と人の)者間距離か?
コンサートの場合、おおよその終わりは予測がついているから帰りの段取りは誰もが「余裕を持って」しているはず。
やはりここは、エレベーターがトロいから、押し合わないでお行儀よく待ってね。動ける人は階段もアリです。でも慌ててコケないでよ。と言うことが伝えたいだけでしょ?(それなら、そう言えばよい)

何だろうね?この気持ちの悪い言い回し。
ここからは、ワタシの邪推だ。
「否定形の言い方はコミュニケーションに於いてよろしくない。肯定的な表現に致しましょう。」などと提唱する〇〇コンサルタントの先生のご指導の下、こうした表現が公の場で蔓延し始めているのではなかろうか?

こんなところにまで「何でもプラス思考」を持ち込んで、「ひとに優しい表現」を気取った結果、伝えねばならぬことが伝わらないのは本末転倒だと思う。なんでも優しくすれば良いってものではない。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?