新アルバム『宇宙的ホリゾント』ライナーノーツ
あなたのイメソンになりたい!
皆さんこんにちは。いとま改め、神原いとまです。
先日、全曲自分で歌っている最新アルバム『宇宙的ホリゾント』をリリースいたしました。
配信リンク:https://linkco.re/UB95QBm8
本アルバムは、Track2『3Kのホリゾント』をリード曲に、宇宙科学に関する要素と、厭世的な人生観、絶望感、そこからどう前を向くのかがテーマとなっている10曲が含まれています。
人間は本当に病んでいる時や苦しい時には「良いことあるさ!前を向こう!」というような無根拠にポジティブな曲を受け入れられないこともあると思います。
そのためアルバムを通して、一旦世界に対する絶望や嫌悪を歌った後に、その中から何らかの希望を見出せるような作りを目指しています。
実際私自身、現在進行系で人生に苦しみを感じてきた経験からこういった作りにしている次第です。
リード曲『3Kのホリゾント』の曲でテーマとしているのは、「宇宙背景放射」として知られる物理現象です。
ざっくり説明すると、この現象は宇宙の全方面から3K(ケルビン)という極めて低い温度の(黒体放射に似た)電波が観測され続けているというもので、摂氏10億度以上のクォーク・グルーオン・プラズマが飛び交っていたビッグバン直後の名残だと言われています。
この現象が観測されたことで、「宇宙の始まりはビッグバンで、それは100億年くらい前のことだ」という学説が定説となりました。
さて、この曲ではこの宇宙背景放射を、舞台芸術において背景や空を表す幕として使われる「ホリゾント」に見立てています。
「我々は舞台に立っている役者で、人生を演じさせられている。君がこの宇宙の主人公なのだ」という意味のメッセージを歌詞に込めています。この点は過去アルバム『覚醒機能2020』に収録した『僕らのプロローグ』でも表現した考え方ですね。
また、「我々の身体を構成する物質は元々は同じ宇宙の一点から発生し、原子は別々の恒星で作られたものである」というロマン溢れる科学的事実から、宇宙の始まりから今に至るまでの宇宙の歴史をラブストーリーになぞらえて歌っています。
歌詞を注意深く読んでいただければ、ビッグバンから「宇宙の晴れ上がり」、星の誕生、原始惑星系円盤の形成、太陽系と今の宇宙の完成までが描かれていることに気づくはずです。
テーマ性は、合唱曲の『COSMOS』によく似ています。実際、『COSMOS』を知らなければこのような曲を作ろうという発想には至らなかったかとも思います。
宇宙の成り立ちについて学ぶ中で、改めて宇宙の中で生命が生み出された神秘について認識させられました。
Track9『君が生きろと言ったから』
明るい曲調に対して歌詞は「人生なんて生きていても仕方がない」「苦しいことばかりならいっそ死んでしまった方が良いに決まっている」とネガティブな考え方を持つ人の歌です。
この曲では「生きていくのはつらく苦しいことである」と認めた上で、それでも「君が隣で一緒に生きてくれるという、ただそれだけがあれば、生きていく価値はある」と一つの希望の形を提示しています。
人生が丸ごとハッピーになるような魔法はなくても、死ねなくなるくらいには執着できるものと出会える可能性はある。
「君のせいだ」というような他責的な言葉遣いをしていますが、そう言って一緒に生きてあげるという大きな決断をするのであればそれは愛なのでは?という思想が入っています。何かそういうCPのイメソンにしていただけませんか?
実は本アルバムの裏リード曲で、一番力が入っています。
ギターは過去に一緒にお仕事をさせていただいたアステカさん(https://x.com/Asteca5150)に依頼しました。
Track10『プレイリストの終わり』
YouTube Musicでプレイリストを作ると、最後に「プレイリストの終わり」と表示されるのがなんだか曲名っぽくて、タイトルオチで作り始めた曲ですが、このアルバムを総括するにあたり良いメッセージ性を入れられると思ったので本気で形にしました。
ある作曲家さんが、ポップスでは必ず前向きな歌を歌うべきだと語っているのを耳にしました。その意見にはある点では同意するのですが、同時に、前向きな歌だけでは本当に落ち込んでいる人や、人生経験から来る「合理的な」絶望を抱いている人に届かないことも知っています。
そこで、この曲では「世の中が前向きな歌ばっかじゃ飽き飽きだよな?」とリスナーに寄り添った上で、「君が今どんな苦境にいるかは知り得ないけど、この曲を、このアルバムを聴いてくれてる間は僕と君だけがここにいて、時を越えて対話している。君は一人じゃないよ」と励ますような内容にしています。
本来であれば、Track01である『Hello, Horizont』に対応するインスト曲で終わらせても良いアルバムだったのですが、『プレイリストの終わり』があまりにも最後の曲として美しい形をしているので、潔く10曲構成のアルバムとしました。
全曲通して、死にたさを抱えている人に「生きてればいいことあるよ!」「いいから死ぬな!」といった使い古された言葉を使わずに、いかに寄り添いつつ「死にたさと付き合いながらも生きていく理由」を提示できるかを工夫したつもりです。
多くの方には届かないかもしれませんが、届くべき方に届けばいいな、と思っています。
宇宙が熱的死を迎えるまでの10^100年を超える遥かな時間の流れの中で、ほんの一瞬だけ存在するこのアルバムに出会ってくれてありがとうございます。