ぬきたしにおける分析及び考察
最近、ぬきたしというゲームをやってみました。
思わず感動してしまった場面などもあり、中々秀逸だと思ったので、感想を書いてみようと思います。
ただ、ゲームの感想としてよく見る「このキャラが可愛かった」というような感想ではないので、注意してください。
どちらかというと構成とか演出に着眼をしています。
その上でネタバレ満載なので、未プレイの方は読まない方が良いです。
未プレイの方向けの説明なども特に設けていません。
さて、始めてみましょう。
二段構えのマイノリティ
島の中では主人公がマイノリティ。
この島は、「ドスケベ条例」という条例があり、それは多数の島民に受け入れられている。
主人公は「ドスケベ条例」を嫌悪しており、少数派に位置する。
島民側と主人公側では、主人公側の方が「常識」に近い為、プレイヤーは主人公への感情移入がしやすい設定になっている。
尤も、「常識に近い」という言い回しをしているように主人公もかなり思想が偏っているが。
本島も含めてしまえば島の条例こそがマイノリティ。
この世界においても本島には「ドスケベ条例」は存在していない。
その為、ドスケベ条例がある島を異常として見ている。
否定的な意見もあるが肯定的な意見も多くあるが、異常な場所として見ているのは共通している。
どこを母数とするかで、マイノリティが変わる世界構成。
つまりこの作品は、島という範囲で終わった場合は主人公が少数派。
本島も関わってくると島自体が少数派と変わる舞台構成となっている。
ルートによって、少数派はどちらか、という見え方が変わるような構成は上手いと言える。
ゲインロス効果を多分に利用した構成
条例の中にある「常識的な要素」
ドスケベ条例は、具体的に書くと以下の通りになる。
特定の個人に限定しない不特定多数の異性同士における性行為を強要する
一定の年齢以下の人物は対象外とし、手を出したものは罰を与える
暴力行為などを相手の同意を得ずに実施した場合、それが性行為に通じるものであったとしても懲罰の対象
体調不良などの理由があれば、一時的に性行為を実施しなくても許される
こうして見てみると、常識な要素も多く存在している事が分かる。
性行為であれば何をしても良いという訳ではなく、相手を尊重する部分もしっかりと存在している。
これは作中で徐々に展開されていく為、少しずつ「案外まともな条例なのでは?」という認識への移行を促している。
不良がたまに良いことをするととても良いことをしたように感じる効果、つまりゲインロス効果を利用しているといえる。
異常な島民の中にある「好感を持たせる要素」
このゲインロス効果は、条例だけではない。
主人公の敵となる、島民や組織にも使われている。
主人公は「ドスケベ条例」に反発している為、組織から見ると「条例違反者」となる。
それ故に、組織は主人公に対して容赦がなかったり、主人公と同じような思想を持っている人に罰を与える。
主人公視点でいえば「明確な敵」として冒頭は映るだろう。
しかし、組織はあくまで条例を守っているだけにすぎない。
条例に違反さえしていなければ寧ろ善人が多い。
転校してきた主人公を思いやる描写も多い。
序盤に「違反者に対する罰を与える」シーンを多用する事で、「悪役」という印象を与えつつも、中盤で善人要素が見えるシーンを入れる事で、「実はそんな悪い奴ではないのでは?」と思わせる事に成功している。
下ネタだらけでレベルを下げてシリアスで上げ高低差を際立たせる
日常パートが下ネタだらけで構成されていて、一般的なゲームの日常パートに比べて知能指数が下がりそうな会話が多い。
その結果、シリアスな展開が発生した時の上り幅が大きく、際立つ。
シリアスな展開だけで見たとき、これが一般的なゲームの日常から発生した場合は、ここまで際立たなかっただろう。
カモフラージュとして機能する秀逸な異常
テンプレートは無難。
この作品は以下の構成である。
舞台は「異常な条例」がある日本のとある島。
主人公は「異常な条例」に強い反感を抱いている。
主人公は仲間を見つけて「異常な条例」に立ち向かう。
定番の中の定番で言えるような構成であると言える。
要素をインパクトがあるものに変える事で、無難を隠す構成
この「異常な条例」が大きく逸脱する事で、この無難なテンプレートを覆い隠しているといえる。
この異常な条例が定番な「弱者は殺され強者が君臨する」みたいな内容であれば間違いなくこの作品は、普通の作品としてほかの作品に埋没していただろう。
全体的な感想
実は、この記事は何度も書き直している。
普通に書いていたら滅茶苦茶長くなってしまった為だ。
この全体的な感想を書きたいが故に、上の話をする必要があり、その都度書いていったら、途方もなく長くなってしまった。
自分の感想として、この作品はテンプレートなどは汎用的なものであるが、要素を特徴的なものとし、様々な定番の手法を上手く組み合わせる事で相乗効果を上手く利用した、秀逸な作品と言えるだろう。
とても工夫されていて、このふざけた世界観の裏にはすごい沢山の努力があったんだろうと伺える。
そして、本作品の流れも非常に好みだ。
「多数派が少数派を淘汰する」
「少数派が多数派を淘汰する」
この二つの流れを組み込みつつ至った結論は、
「お互いの主張を共存させる」ということ。
作中での解決方法は「住み分け」だ。
実際、住み分けにおいてもその割合とかで現実でやれば問題は生まれるだろう。
だから最適解だとは言わない。
ただ、「お互いの主張を共存させる」という結論への導きはとても良かった。
主人公は結局、主張を曲げなかった。
だが、好きな人が望んだからの「共存」。
それで良くて、それが良かった。
今現在、少なくとも自分はゲームにしか興味を持たない人なので、ゲーム業界視点になるが、主張の押し付けが多い。
「こうあるべきだ。こうでなければ、こちらの主張を否定していると見なす」
そういうような主張だ。
それで、ゲームの中身が変わったり、良さが奪われたりという場面も多く、正直悲しく思う。
故にこそ。
このゲームが主張した共存という結論は多くの人に伝わったらいいなと思う。