㉚休止前:ホームページ制作の心得
ニューヨーク便りの30回記念は、ニューヨークに来て行った仕事の話を書こと思う。ニューヨークに来て半年。そろそろ観光ビザの期限が切れる。帰国までに、あと何回、記事がかけるかどうかわからない。あるいはこれが最後かもしれない。ニューヨーク便りというタイトルなので、ニューヨークに関して書かないといけないのだが・・・。今回は、日本から依頼された仕事であり、アメリカについてではないし、ニューヨークの話ではないので悪しからず。
日本を経つ半年ほど前、産業機器販売の会社からホームページ制作を依頼された。私はマーケティングマンなので、ホームページのデザイン制作はできない。できるのはホームページの原稿制作。ホームページにはビジネス商品だけではなく、企業のビジョンや企業行動指針、事業展開構想なども掲載する必要がある。自分が何者かを広く知らせることも必要だからだ。それが企業の信用のベースを作る。それに加え、企業ロゴやマークや、企業を語る企業スローガンなども作る必要があり、それらを企業コンセプトに基づいてデザインの基調を作るのも私の仕事領域である。
私はこのホームページ制作を依頼された時、一旦はお断りした。デザイン周りの仕事は何度もやり直しが伴うし、手間暇がかかる。それに好き嫌いが軸になるので、依頼主の嗜好に委ねられることが多い。私の性分にあわない。しかし、以前からの知り合いだし、何度もこの会社の相談に乗ってきた経緯もある。企業コンセプトや、事業展開の構想図も私が作ったものだし、扱い商品に係るコンセプトも考えてきた。この会社や仕事のことに詳しいのは社長の次に私だという自負もある。そんな過去があるし、私は趣味的に仕事をしているので料金も高くない、というか、業界の人が知れば相場を下げると怒り出すのではないかと思う位に相談料金も安いということもある。そんな理由から社長は私の頼ってきたのだろう。だから私のプロデュースで自分の会社のホームページを作ってほしかったのだと思う。格安料金も期待されていた大きな理由。
そこで私は、私と一緒にデザインをしてくれるWebデザイン会社を探した。しかし、あちこち探したが見つからなかった。料金的に折り合いがつかなかったのだ。ちょっとホッとした。断る明確な理由ができたからだ。その一方で、性分なのか、一方でなんとかする方法はないのかと模索していたのも事実だった。そして、ついにデザインを引受けてくれるWEBデザイン会社が見つかったのだ。そんな経緯で引受けた仕事だった。
この仕事で幾つかミスをした。見積もりの甘さと進行のまずさ。進行のまずさはそのまま制作費に跳ね返ってくる。一番大きかったのは翻訳料金だった。今回のホームページは東南アジアを商圏としているので日本語版以外に英語版を作ることになっていた。英語版も急いでいた。ともすれば英語版のほうを先に公開したいほどだったのである。
制作進行では、日本語版を完成させてから同じデザインで英語版制作に取りかかることとした。そして日本語版の制作にかかると同時に、日本語の原稿を翻訳会社に依頼することにした。同時進行でないと翻訳に3週間もかかるために間に合わなくなるから。ここに色んな問題が潜んでいた。見積り段階では中堅クラスの翻訳会社に依頼して、それを私を含めて数人で逆翻訳し、チェックすることにしていた。しかし作業の途中から、翻訳は日本で一番優秀だけど料金的には一番高い会社に依頼するように変更した。商品の中身が金型洗浄など、専門用語が多かったから。だから中堅翻訳会社では不安が残った。しかし、翻訳料金が高くても、英訳に間違いが多ければ逆に時間がかかってしまう。そう思い、一番料金が高いのを承知で、その高名な翻訳会社に依頼することとした。先に提出した見積金額とは大きく変わるが背に腹は換えられない。最初から一番優秀と言われる翻訳会社にしておけばよかった。これが1つ目のミス。見積り料金を大きく上回ったのだ。
そして日本語版の制作に取り掛かった。しかし、・・・。この日本語の制作段階で原稿内容はドンドン変わっていった。「ありゃりゃ・・・」。デザイナーを含めた打ち合わせの席で、原稿内容がドンドン変わっていく恐怖。「大幅な翻訳の見直しがいるなあ・・・」。結局、何十箇所の文章の変更となった。「誰が責任を持って翻訳をするんだい!?」「翻訳の追加料金は誰が払うんだい?」。そんな事を考えながら、原稿の修正を私は見守っていた。
そうこうしているうちに、翻訳が終わって英文原稿が納品されてきた。返す刀で、即刻、変更原稿の翻訳依頼をする必要があった。しかし、しかし・・・。新たな翻訳は全て追加料金扱いだという。更には質問には一切答えられないとのこと。質問の受け付け可能コースはスタンダードコースとは別の特別コースという。私の契約した料金コースでは質問や修正には応じてもらえず、全て追加料金が必要となるとのことだった。作業に取り掛かるのに際しては、全額前払いで、それにも応じたのに。
私は幾つか教訓を得た。日英両方のホームページを制作する場合、英語版は、完全に日本語版が出来上がってから翻訳に取り掛かった方がいいということ。公開時間はその分、遅くなるが仕方がない。原稿内容に変更の可能性がある場合は、事前の翻訳会社との契約段階では質問受付可能コースを考えた方がいいという教訓。
今回のWebデザイナーとの間では、なかなかデザインの方向性が合わなかった。産業機器の販社という中途半端の立ち位置がデザイナーには理解しづらかったのだろう。理屈は忘れたが、最初は暖色系のデザインが上がってきた。しかも泥臭い。私が到底、受け入れられないデザインの方向性、しかも負のイメージを喚起する写真などがあちこちに・・・。
何度か打ち合わせたが、なかなか方向性は統一できなかった。そんな時、やっぱり能弁に語るのは企業ロゴやマークや、企業スローガンだった。
ホームページ制作には企業ロゴやマークは欠かせない。更には企業スローガンも不可欠である。今回、私は企業ロゴとマークの制作を二人のデザイナーに依頼していた。そしてその中に素晴らしい案が1案あった。そのロゴマークに企業の思いを込め、ツートンのグリーンのカラーを付けることを再依頼した。この着想がホームページのデザインの方向性を決めたのだった。企業ロゴ・マークにはその企業の思いのすべてが注ぎ込まれている。その思いをホームページにも表現できたらいい。今更ながら、企業ロゴ・マークのチカラを感じた瞬間だった。
会社を立ち上げる時、私はロゴ・マークの制作も同時に作ることを薦めたい。いったいどのような考え方で企業を立ち上げたのか、どのような事業構想を抱いているのか、将来どのような企業にしていきたいのか、そんな思いを整理し、それをロゴマークに込めるのだ。初心の所信をデザインする、そんな発想を持つべきだ。そのロゴマークは必ずホームページ制作時に役に立つ。
またロゴマークは複数のデザイナーに依頼するのがいい。デザイナーはみんな自分独自の世界観を持つ。そのために、デザイナーの世界観に合わないデザインを望むと苦労する。最悪は、デザイナーを換えないといけないことにもなりかねない。そんなことをするとデザイナーも傷つくし、自分も苦労することになる。だから最初から複数のデザイナーに依頼するのがいい。そして、「これは!」と思う案に会えたら、そこからその案を軸にして詰め作業をしていけばいい。そうまでしても企業のロゴやマークは慎重に取り組む必要がある。今回、私はロゴ・マークのデザインでもミスをした。見積りが甘すぎたのだ。ロゴデザイン制作には時間がかかる。複数のデザイナーも準備する必要がある。更には、デザインの詰め作業や修正には追加の報酬の支払いも必要となってくる。そんな追加費用、支払うクライアントはまずこのようには存在しないから。
十分お気をつけあそばせ!
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