LTVと向き合うためのデータマネジメント #SaaSLovers Day4
はじめまして!SaaS/サブスクリプションビジネスにおける販売・請求管理SaaSのScalebaseを提供しているアルプCEOの伊藤です。
0. #SaaSLovers リレーブログ企画について
私、第1回の #SaaSLovers企画から参加しております!
#SaaSLoversとは、有志で "SaaSに関する"ブログを日替わりで書く企画です。今回で5回目となり、今まで皆さん累計で90記事くらい上げています!(気づけば、すごい量に👀)
1. 本日の内容
さて、本日はSaaSの根幹であるLTVの考え方、向き合い方とそれにまつわるデータマネジメントについて、考えをめぐらそうと思います。当たり前の話も多いかもしれませんが何卒🙏
2. LTVとは
前提として、この数年、売り切り型が中心のビジネスモデルから、多くの業態でサブスクリプションモデルへの転換が進みました。
サービスや商品の所有権をその場で買い取るのではなく、契約期間中の利用権に対して費用を継続的に支払うサブスクリプションモデルでは、収益は顧客との継続的な関係によって生み出されます。その継続的な関係におけるトータルの収益をLTV(LifeTimeValue: 顧客生涯価値)といいます。SaaS / サブスクリプション事業において非常に重要な指標です。
3. LTVの分解
3-1. LTVの定義
サブスクリプションビジネスにおけるLTVとは基本的に下記の式をベースに算出されます。
LTV = ARPA x Customer Lifetime
Customer Lifetimeは1 ÷ Customer Churn Rateと表現することも可能(参考記事)なので置き換えたものが下記の式です。
LTV = ARPA / Customer Churn Rate
またCACでは考慮されない提供コスト(ホスティング費用等)も考慮すると以下のような式となり、多くの企業ではこちらの式が採用されているのではないでしょうか。
LTV = ARPA x Gross Margin % / Customer Churn Rate
なので、LTVに向き合う上での重要なポイントは、いかに「ARPAを向上させられるか」「Customer Churn Rateを抑えられるか」「Gross marginを抑えられるか」となります。今回は特にARPAの話に触れつつ、データを用いたLTVマネジメントについて話していきます。
3-2. LTVの成長:ARPAを上げるために
SaaSの場合、LTVを話す文脈でのARPAはAverage MRR Per Account が用いられるケースが多いのではないでしょうか。Average MRR Per Account を向上させるには、「プライシングの変更」「アップセル」「クロスセル」の3つの方向性があります。
プライシングの変更は単なる値上げだけではなく、顧客のプロダクト活用度合いに応じた多段階のプラン提供や、利用ボリュームに応じて課金する使用量課金モデル(Usage-based Pricing)の導入もオススメです。
海外のSaaS企業600社を対象とした調査でも使用量課金モデルを導入する企業が急速に増えており、既に半数を超える勢いとなっています。
アップセルやクロスセルに関しては、既存のプロダクトやプランに対する顧客満足を前提に、それらの顧客にさらなるサクセスを提供することが重要です。現状のサービスに満足している顧客を見極めること、そしてその顧客が次に何を欲しているのかを特定することがアップセルやクロスセルの重要な要素です。
4. LTVにどう向き合うべきなのか?
ここからは実際にSaaS / サブスクリプション事業を運営する上で、どうLTVやその分解指標に対して向き合っていくべきだと考えているのかをお話したいと思います。
4-1. 顧客の声を聞き、全社で把握すること
大前提として顧客の声を聞くこと、そして全社で把握することが、まず何よりも重要です。
顧客の声を聞くことの重要性ですが、2019年と少し前のものですがこちらの記事でラクスルの田部さんがおっしゃっているように、繰り返し仮説を持ってお客様に会いに行くことで初めて気づける顧客満足のポイントや解約の理由があること。業務支援SaaSにおけるヒアリングの仕方についてはエピックベース松田さんのnoteも大変素晴らしかったです。
我々アルプも担当のセールスやアカウントマネージャーだけでなく、プロダクトマネージャー/エンジニア/デザイナーも含めた組織全体で顧客へのヒアリングやインタビューを行っています。
4-2. データを武器にすること
顧客の声を聞くことを徹底した上で、顧客の細かな利用動向を知ったり、スピード感を持って事業改善をしていくためには、データを武器として用いることも非常に大切です。
LTVが高くマーケティングコストをかけるべきセグメントはどこなのか、解約した顧客たちはどんな行動/シナリオだったのか等、データからは非常に多くのインサイトや改善のキッカケを得ることが出来ます。
実際にサブスクリプションへの転換を成功させているAdobe社は、事業の成功の秘訣としてDDOM(Data Driven Operating Model)というフレームワークを2016年に導入し、サブスクリプションサービス導入時以上に大きなインパクトを残されています。
5. データを武器にしたLTVマネジメント
実際にデータを武器にしたLTVマネジメントの手法やそれらを支える基盤について
5-1. データを用いたLTVマネジメントの手法例
例1 : What If分析に基づいたプライシングの最適化
多くのSaaS企業は、プロダクトをローンチしてから何度もプライシングを変更します。
プライシングの最適化において、サービスの提供価値の根幹のドライバーであるValue Metricsを定めること、その上でそこを基軸とした使用量課金のプライシングを設計できるよう、思考をどこまで深められるか、またそのチューニングをし続けることが大事という話を昨年のSaaSLoversに出させていただいたnoteでも取り上げました。
では、どのMetricsに対してとある料金モデルで課金したケースにおいて、LTVや売上はどう変わるのでしょうか。Metrics、料金モデル、解約率などの複数のレバーを変更しながら既存顧客にも新規顧客にも適したプラシイングを探すことがARPAを上げていくためには非常に重要です。
例2 : アクティビティと収益データを組み合わせたシナリオ分析
例えば、アップセル/クロスセルやチャーンを目的変数として、顧客のアクティビティやステータスを説明変数とします。それらを決定木分析にかけることによって、どんなシナリオの顧客がアップ/クロスセルやチャーンしやすいのか、またその中のアクションはどれくらいの回数がチャンス/リスクの分かれ道になりやすいのかを知ることが出来ます。
例えばこの中のアクティビティ毎の閾値を超えた顧客に対して、アカウントマネージャーが直接コミュニケーションをとって良いシナリオに誘導したり、寄与度が高い(決定木分析においてより上段に表示される分岐)機能を強化することで、ARPAの向上やCustomer Churn Rateの改善を図れます。
実際に私の前職のピクシブでは、pixivプレミアムというサブスクリプションサービスの改善にこの手法を使い、継続率に寄与度が高かった機能を強化したり、機能への動線を強化することでCustomer Churn Rateが大幅に改善しました。
5-2. ただのデータから示唆のあるデータへ
上では2つの分析例について触れましたが、他にもSaaSには重要な分析はいくつかあります。例えばマーケティング活動におけるセグメント毎のLTV分析をベースとしたCACの最適化なども経営上非常に重要な要素ではないでしょうか。
これらの分析と改善のサイクルを正しく早く回すには、データ基盤を整備することが必要不可欠です。データ基盤が整備されていないと、せっかくデータを武器にしようとしても、以下のような問題が発生しがちなためです。
(よくある問題の例)
「売上の定義が営業と経理で異なる、営業はSFAの値を正として経理は会計ツール上の数字を見ている。」
「毎期、経営企画のメンバーが複数のデータソースからデータを集めて、突合して指標化するだけで一苦労」
「アカウントマネージャーの活動とプロダクト内の顧客アクティビティがバラバラに保管されていて、紐付いて管理できていない」
「この1年で新しい機能を開発したり今までとは異なるセグメントの顧客群を獲得しているのに、ヘルススコアの項目がアップデートされていない」
「新しい軸で分析しようとするとSQLをかけるエンジニアに作業依頼をする必要がある」
5-3. LTVと向き合うために目指すべきデータ基盤
上で書いたような問題を解決しながら、事業改善のためのデータ分析を行うには、以下のような構造でデータ基盤を構築する必要があります。
データ基盤を構築する場合は、未加工のデータを集約するデータレイク、データの規格化を行うデータウェアハウス、規格化されたデータを加工する(分析モデルの適用含む)データマート、そしてビジュアライズ化するBIやダッシュボードという構造で設計する必要があります。
ここで重要なのは、Single Source of Truthという考え方です。様々なSaaS(SFAや会計ツール)や自社DBなどに分散したデータを同じ場所に集約し、それらを規格化して「唯一の信頼できる情報源」として扱うことによって、全員がよく整理された同じ定義の情報に対し分析できるようになり、スピーディーな意思決定が可能になります。(参考)
しかし、これらのデータの規格化は会計なども含めたビジネス要件を正しく理解する必要があるだけでなく、データソースとなるシステムのデータ生成ロジックを熟知している必要があります。社内の経営企画やエンジニアのメンバーが単独で規格化を行うことは非常に難しく、手がつけられていない企業も多いのが現状です。
その第一歩として、Scalebaseは、複雑な契約情報を正確かつ規格化して保持できているのでめちゃめちゃいいって話なのですが、それはまたどこかで🙏
(PR)そんなこんなで、実は現在、このデータ基盤の構築を支援する新サービスを準備しています。Scalebaseの利用有無を問わず、上記のようなデータ基盤を構築し、LTVに向き合うための可視化や分析を行うものです。
既にモニターとしてサービスの検証にご参加いただいている企業においては、解約企業を事前に予想し、それらの企業の解約に至る理由(シナリオ)もセットで把握出来る分析をご提供しています。現時点の的中率も約80%〜90%と高い精度を誇っています。
データ基盤の構築を支援したり高度な分析を提供する新サービスのモニター企業様を若干数ではありますが募集しておりますので、データを武器にLTVと向き合いたいという企業の方であったり、データ基盤の構築にお悩みを抱えていらっしゃる方がいればよろしければDM等でお気軽にお声がけください!
6. おわりに
明日はセールスリクエストの原さんによる「Salesforceの導入初期にやってよかったことについて」です!気になる〜💪
最後までお読みいただきありがとうございました!