【投資家対談vol.2 】DNX Ventures倉林陽に聞く スタートアップ企業アルプの行く先と成功への道筋
さいしょに
アルプは、先日総額12.5億円のシリーズA資金調達を発表いたしました。(記事)それにちなみ、シード期から今回に至るまで絶えず出資を即断いただき支援いただいている投資家であるDNX Venturesの倉林陽さんとの対談を社内向けに開催いたしました。
本noteはそちらの様子をまとめたものとなっております。まだプロダクトがない時からの出会い、そこからの敬意や、経営陣・Scalebaseへの期待など大いに語っていただきましたので是非お読みください!
倉林陽
DNX Ventures マネージングパートナー兼日本代表
富士通株式会社及び三井物産株式会社で日米のベンチャー企業への投資、事業開発を経験。MBA留学後、Globespan Capital、Salesforce Venturesの日本代表を経て、2015年3月に日米2拠点でBtoB分野のアーリーステージのスタートアップに投資するDNX Venturesに入社。2020年よりマネージングパートナー兼日本代表を務める。同志社大学博士、Wharton MBA。
伊藤 浩樹
アルプ株式会社代表取締役CEO
略歴:東京大学卒業後、モルガン・スタンレー、ボストン・コンサルティング・グループを経て、2013年にピクシブ株式会社に入社。新規事業開発や開発組織のマネジメントなどを経て、2017年に代表取締役社長兼CEOに就任。2018年8月、継続収益ビジネスを支えるクラウド販売・請求管理システム「Scalebase」を展開するアルプ株式会社を設立。
「目先の利益ではなく顧客満足度に注力する」ことで事業の土台を作る
伊藤: 創業初期から投資いただきありがとうございます。改めて、どのような経緯でアルプや私を知ってくださったのでしょうか?
倉林:伊藤さんがボストンコンサルティンググループ(BCG)からピクシブ会社に転職されたタイミングですかね。BCGに在籍していた友人から「伊藤くんっていう優秀な若手がピクシブという会社に転職するんだけど、この会社知ってる?」と教えてもらったのが最初ですね。
伊藤:それは、何とも恐れ多いです(笑)ありがとうございます。そこから間はあきましたが、私もアルプを起業するにあたり、当時、ベンチャー投資周りに詳しかった妻に相談したところ、SaaS領域だと倉林さんにまず会うべきでしょうとアドバイスをもらいました。知人を介して後日、会う機会を作ってもらい、ご相談等を重ねて今日に至ります。
起業してすぐは採用も事業も、日々焦ってばかりでした。一方で、倉林さんは大事なことに丁寧にフォーカスすることを貫かれ、悠然と構えていてくださったおかげで、常に正しい選択を取り続けられたと思います。おかげでこれまでクリティカルな課題や壁に直面することもありませんでした。
創業から現在まで「目先の短期的な利益ではなく、顧客満足度に注力すべき」と助言していただいたことを今でも強く覚えています。お客様にも褒めていただけるようなカスタマーサービスの手厚さやプロダクトの機能の実装スピードなど今の土台ができたのもこの言葉があるからです。倉林さんから見てアルプ/Scaleabseの強みや面白さをどこに感じていますか?
倉林:SaaS for SaaS分野(SaaSありきの世界で必ず求められるSaaS)は、米国でも最もEV/Sales倍率が高い、注目分野だと認識していました。Scalebaseは、立ち位置的に継続課金モデルのサービスを展開する企業の根幹となるデータを握るので、色々な進化が考えられます。
大事な部分を担うだけに、プロダクトは高い完成度が求められるし、CS/オンボーディングも大変なはず。ただそこにしっかり向き合っていけば他社との差別化に繋がります。
焦らず対象セグメントを見極めながら一歩一歩進めばいい
倉林:大きな課題にぶつからなかったというのは、丁寧かつ着実に事業を進めている証です。簡単な領域のビジネスではないですが、確立した先には、領域の中核を担う企業になると信じています。
伊藤:創業当時、BtoBのソフトウェア開発はおろか営業の経験もありませんでした。右も左もわからない僕に「これまでのキャリアと全く異なるが、大丈夫か?」「結果が出るまでにかなり時間のかかる領域で、辛抱強く戦えるのか?」など何度も言葉をかけていただきましたよね。
倉林:企業の急速な成長は、良し悪しはどうあれ結果がでやすいBtoCの方が実現できる可能性は大きいです。一方でBtoBの場合、企業には必ず悩みや課題があり、その解決策を市場に提示し、カスタマーサクセスなどやるべきことを地道に遂行しなければいけません。特にScalebaseが勝負する領域は、プロダクトの開発や価値の啓蒙などにも莫大な時間がかかりますが、腰を据えて向き合う覚悟があれば必ず成長できるでしょう。
また、十分な資金調達ができている現フェーズにおいては、焦る必要は全くないです。資金があれば、社員の皆さんは目先の売り上げではなく、顧客満足度やプロダクトを磨き上げることに集中できる環境にいます。
資金力に乏しく成長も加速できていない会社の中には、調達のために無理矢理にでも売り上げを作らないといけない場合もあると思います。しかし、プロダクトが弱いのでCSへの負担も大きくなり解約リスクも高まります。そして自転車操業のような負のサイクルに陥ります。
無理矢理売ることの一番のデメリットは、数字が上がらない以上にメンバーが疲弊することです。CSの努力の甲斐なく解約してしまうと、担当者のモチベーションが大きく下がり、最悪退職する可能性もあります。また、間違ったターゲットに中途半端なプロダクトを売ることで、市場にネガティブな印象を与えます。ついついそれをやりがちな企業が多いように感じますね。
伊藤:売り上げの追求よりも、「焦らない」「顧客満足度にとにかくフォーカスする」ことへのこだわりを強く感じていますが、売り上げを立たせなくてもいいということではないと理解しています。そこに深くこだわる背景や考えはどういう理由なんでしょうか?毎年売り上げが2倍、3倍と上がることへの焦りを感じる起業家も多そうです。
倉林:レーザーフォーカスした市場での完璧なプロダクトマーケットフィット(PMF)無しに、その後の急成長はないと思っているからです。定まりきらないセグメントとハマりきっていないプロダクトで新規を取り続けても、いずれ解約に繋がってしまう。正しくない顧客に付き合うことのダメージは大きいので、目先の質の悪い売り上げを追うより、まずはMRRのクオリティ(エンゲージメントの高いMRR)にこだわり、そこから対象セグメントを増やしていけば良いと思っています。
今後事業を進めていく上で重要な3つのこと
伊藤:おっしゃるように当初、請求業務を効率化させるツールとして開発をスタートしました。現在は売り上げをクロスセル・アップセルさせる機能を拡充し、現場の担当者以外はもちろん経営者層にも刺さるソリューションを提案するソフトウェア / システムへと進化しています。今後、さらに事業を進めていく上でこの先気をつけるべき点を教えてもらえますか?
倉林:1つ目はメンバーの増加によるカルチャーの変化です。事業拡大でメンバーを拡充すると既存のカルチャーを信頼できなくなくなったり、そもそものカルチャーが失われたりという問題が起こりかねません。人が離れていったり、会社への信用や愛がなくなる原因になるので、留意すべきです。
2つ目にノーブル・パーパス(社会的に意義のある目的)を持つことです。
自社の事業は、社会に貢献する素晴らしいことだという意識を全メンバーが体現することが大切です。そうすれば優秀な人材を獲得できますし、彼らは周囲のメンバーにも良い影響を与えて相乗効果が期待できます。
3つ目はプロダクトの強さです。
調達した資金をプロダクトに投じて、差別化することが大切です。
売り上げを立てることも重要ですが、プロダクトに投資するほうが正しいという局面もあります。上述したことを体現できれば優秀なエンジニアにも出会えるでしょうし、良い開発チームも作れますよね。
プロダクトあってのマーケティングなので、仮に競合が安価なプロダクトを出してきてもプロダクトの質で勝負できますし、携わるメンバー含め、プロダクトにより投資した企業が最後には勝つと思います。
伊藤:お話を聞いてやるべきことが、さらに明確になりました。メンバーの拡充という点に関しても、専門的に行うメンバーが社内にはまだまだ少なく、手がいっぱいになる状況も少なくありません。現状の50人規模(業務委託を含む)では、ゴールは全く達成できないので、100、200人とさらにメンバーを拡充しないといけません。
現在、ベンチャー企業は昔より資金が集まりやすくなったと同時に、人も流動的になってきました。創業時から、アルプに在籍する価値と意味を、メンバーに積極的に感じてもらう意識をしています。成長の実感やパーパスへの共感に加えて、アルプに在籍することが意義のあるキャリアだと、今いるメンバーはもちろん、これからジョインするメンバーにも感じてもらう取り組みを昨年以上に強化していきます。
倉林:人が組織を作るので代表の伊藤さんをはじめとした経営陣がそのように取り組んでいくことで、今後事業が成長しても現在のメンバーを中心にバリューが薄まることなく、成長していけるでしょうね。
伊藤:アルプでは「真摯さ」を最上位の理念として5つのバリューを定めています。これまでのキャリアの中で、誠実に人と向き合うことの大切さを学びました。嘘をついたり、真摯ではないことがいかに問題を生む原因か知りました。
また弊社はバリューの一つにオーバーコミュニケーションをあげています。
あらゆる組織間の問題の原因は、伝達漏れや説明不足などがコミュニケーションの問題だと考えています。
理想的な経営ポリシーは優秀な人たちが、自律的に価値を出していくことです。そんな組織を作るには、互いを信じられる環境の元、それを担保できる十分な情報量やその周知を大事にしたいと思っています。
倉林:オーバーコミュニケーションはアルプを象徴する言葉ですね。丁寧にコミュニケーションの量を増やしていくことは、素敵だと思います。
私たちの投資先は、事業はもちろん日頃の振る舞いを含めて真摯であって欲しいと願っています。今後、他業界の優秀な人材がどんどんスタートアップに流れて、今後、業界はますます発展していくでしょう。彼らがアルプの姿勢を見習えばもっと日本は豊かになるでしょうし、そのロールモデルとして今後もバリューを大事にしてもらいたいです。
経営をスケールし、事業の基盤となるソフトウェアへ
伊藤:日々社内でプロダクトの方向性や事業の方針など議論を重ねています。今後メンバーを拡充するなど企業としても成長させていくつもりです。倉林さんは今後、事業やプロダクトはどのように進めていくべきとお考えでしょうか?
倉林:事業規模が大きくなると、経営陣が社員一人ひとりと関わることは難しくなってきますよね。会社外での交流だったり、定期的にバリューに沿った働き方ができているのか確認する場を設けたり、時には全員で現状を見直すことも大切です。また、スタートアップは事業もメンバーも成長スピードが大企業より早い傾向にあるのが魅力です。成長に合わせて上司や管理職のメンバーがバリューを体現できる教育の場を作ることも大切です。
プロダクト面では、必ずお客様は現状のプロダクトへの期待や要望を持っていると考えたほうが良いでしょう。一定数のお客様がプロダクトに満足し、オプションで細かな対応をするレベルにまで、可能な限り早く到達すべきです。
SaaSは永遠にアップグレードを続ける、いわば”未完のプロダクト”を扱うので、今後のお客様が増えても細かな対応や機能の拡充に期待したいですね。今、アプローチしているSaaS業界の主要大手企業を網羅して業界での位置を確立して欲しいです。
伊藤:事業規模を拡大して、SaaSの主要大手企業を抑えることで、これまで未開拓だった業界のBtoBのサブスクリプションビジネス市場にアプローチするなど目線が広がります。
2022年は、我々が持つトランザクションデータによる指標の可視化だけに止まらず、Scalebaseが経営をScaleさせていくプロダクトとしてアップグレードさせていきます。そのためには業務システムの価値を超えて、事業や収益を成長させる経営システムとして価値を出していかなけばいけません。いつの日か、国内のあらゆる販売活動を管理するプロダクトのトップに立てると確信しています。そんな中でアルプの課題や今後期待することはありますか?
倉林:特に課題は見つかりません。数字だけ見ると年間経常収益をもっと伸ばすためにどうしていくかという話がいつものように出てきますが、何度もお伝えしている通り、拙速に焦ることに意味はありません。とにかく、プロダクトに向き合い続けることが大事なんじゃないでしょうか。
伊藤:倉林さんからはフィードバックをもらう際に、励ましの言葉や目先の売り上げに囚われずにもっと大事なものを考えるべきとアドバイスを絶えずいただき、精神的な支えになりました。この数年は、倉林さんに見守られながらしっかり育てていただいた感覚です。我々アルプの5年後は、どうなっていてほしいと思いますか?
倉林:少なくともSaaSサブスクリプション管理領域でNo.1になっているでしょうね。現在はSaaS領域のみですが他業種、そしてtoCにも手を広げていると思います。また、新しいプロダクトや事業への展開も期待しています。SaaS+Transactionの組み合わせで上場時に2-30億ドルの企業価値を想定している日本のスタートアップは、DNXの投資先にも複数社いますので、そのようになって欲しいです。
伊藤:ARR(年間経常収益)が何十億、何百億、メンバーも何百人、千人を超えるような事業規模になっていたいですね。その上で、成長した先でも今のメンバー達と密度の濃い関係を築きたいです。日本の業務オペレーションを支えていく大規模エンタープライズソフトウェアになるべく、今後も邁進していきます!ありがとうございました!
さいごに
いかがでしたでしょうか!
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