SaaSプライシングの今 - SaaS部2020 Autumn by DNX Ventures
こんにちは!アルプ伊藤です!!
先日、DNX Ventures主催の「SaaS部 2020 Autumn」に参加・登壇してまいりました。テーマは「SaaSプライシング」ということでBCG時代の大先輩である、服部 奨氏(Boston Consulting GroupのManaging Director & Senior Partner)がメインでお話されるということもあり、縁あってSaaSプライシングについて服部さんとセッションをご一緒してきました。名だたるSaaS経営者からのQ&Aも含めて本当にリアリティある話がてんこもりで非常に私が勉強になりました。せっかくなので簡単にその内容をまとめたいと思います。
プライシングとは何なのか?
「値決めは経営である」
これは京セラ稲森さんのお言葉ですが、服部さんはまずここに真髄があるともおっしゃってました。「お客様が納得し、喜んで買ってくれる最も高い値段」。この見極めこそが難しい、と思いつつ、結局ここに返ってくるとのこと。
経営者が積極的なら積極的な価格に、慎重なら保守的な価格になる。
「お客様が納得し、喜んで買ってくれる最も高い値段」
それより低ければいくらでも注文が取れるが、 それ以上高ければ注文が逃げるという、 このギリギリの一点で値決めするようにしなければならない。
値決め、それは経営者の能力と、経営哲学の反映だ。
もし値決めによって会社の業績が悪くなるとすれば、それは経営者の器の問題であり、心の問題であり、経営者の持つ貧困な哲学のなせる業だ。
プライシングのフレームワーク
一般的にプライシングを考えるべき枠組みとしてはこの3レイヤーで考えるようです。いくらか付随するポイントも含めてまとめておきます!
1. プライシング戦略レイヤー
会社として何を達成したいのか、どういう価格モデルを実現していくのか?
- 目的関数(Why:なぜやるのか)
- 価格モデル(価値獲得ロジック)
2. プライシング実行レイヤー
実際の価格のティアをどう定めていくか、また価格差やディスカウントをどうコントロールするか?
- 価格水準の設定 > 戦略的価格差の設定 > ディスカウント管理(市場取引価格のコントロール)
3. 組織能力、運営
(そもそも事業全体や地域単位での把握の難易度が高い大企業が特にイシューになりがち)
- 組織ガバナンス
- 人材
- プロセス
- ツール
プライシング戦略設計における3レンズ
戦略レイヤーにおいては、さらにこの3方向からプライシングを考えていく。特に競合の位置付け、また自社が相対的にどこにいるかは?プライシングにおいて非常に重要
1. エンドカスタマー&チャネルのレンズ:価値のためのプライシング
2. 競争力のためのプライシング :競争のためのプライシング
3. 経済性レンズ:マージンのためのプライシング
Next best alternativesを補足しておくこと
- この製品がない場合に、顧客が選択しうる次の最善の選択は何か?そこがアンカーになる
- 例えば、カラオケだと昼と夜で金額の感度が違う(昼なら歩ける距離が広く、学生も多いので高いと他のカラオケに人がうつりやすく、人が入らない。夜は歩ける距離が狭まり、ある程度高くしても一定の圏内では大丈夫、など)
Key Value Itemの定義
顧客が意思決定する上でアンカリングしているカテゴリー、機能は何か。重要としている要素、機能、プロダクトは何か。
- 顧客はすべての商品の価格を覚えているわけではない。鍵となる商品(Key Value Item)の価格をみて全体の価格が高いか安いかを考えている
- 小売の世界だと、Key Value Itemを競合よりもよりやすくし、Non-KVIとのメリハリを聞かせたプライシング戦略をとることが多い
SaaSにおけるプライシングのポイント
1. プライシングは競争戦略そのもの:顧客の価値創造、セグメンテーション、競争環境・優位性
2. プライシングの設計と実行も大切だが、最初に決めるべきは目的関数(Why)
3. 重要なポイントは、自社のプライシングが望ましい顧客行動につながるか?
4. 競争環境が変わればプライシングも当然見直しが求められる
5. 組織が実行し切れるのかのキモは自信/Confidence(顧客の価値創造、製品・サービスの磨き込み)
SaaSにおけるプライシングとは?
後半は参加されてるSaaS起業家の方々も含めたQA&ディスカッションのセッション。SaaS企業家の皆様が具体的にどうプライシングを考え、進化させてきたのかその片鱗をリアリティ持って垣間見ることができたのは非常に貴重でした!
Q. バリュープライシングをどう設計してきたのか?
「顧客の売上成長」というドライバーを軸に価値訴求(ANDPAD 稲田さん)
- 「先行企業における売上とIT投資比率をみたときに、どこまで投資すべきか?」「どう売上を伸ばすか?」という議論を進めて成長につながる必要な投資としての価値訴求を徹底
- 競合の効果なソリューションとの対比も当然
「実現したい世界からの逆算」と「事業が伸びるドライバー」を意識した設計(Sansan 寺田さん)
- 全社でインフラ的に使ってもらうことに意味があると考えていたが、ID単位で提供する限り、その使い方はできないという初期の課題
- そこで考えたのが「名刺の枚数ベースでの見積もり」かつ「IDは全社員に付与しなければならない」というルール(約款に記載)
- 実現したい世界観に合わせたプライシングを開発
- メジャー/マイナー問わず変更はこまめに行っている
- 刷新のタイミングについては、機能の成熟ももちろんあるが、ずっと考え続けて試し続ける中でやっとたどり着いた
- 絶えず「事業がいかに伸びるか?そのドライバーをどこにおくか?」を考え続けていた
- 無形商材だと特に、プライシングは無限の選択肢がある。今でも悩んでいる
- 機能の追随を待ってプライシングを変更する、ツールの整備を待つという話もあると思うが、そこは一定スピードを優先して無視したところもある。どうスピード感を持って反映させるかも重要
Q. プライシングはどの程度先まで見越して考えているのか?見直すタイミングはどういうタイミングか?
Horizontalで提供する価値も幅が広いためシンプルなバリュープライシングが困難なケースもある。初期は収益性度外視でユーザー数拡大に注力。そこから基準とするValue Metricも変化し、単価も拡大(スタディスト 鈴木さん)
- TeachmeBizは対象とする部門も業界もバラバラなので、バリューに基づいたプライシングが難しい
- 現在は月額10万円がベースだが、ローンチ時点では2500円。当時は収益性は度外視してユーザーを増やすことに注力。アカウントは無制限な代わりに閲覧数で課金
- その後大手企業への展開・アップセルを見越してアカウント単位の課金に変化
- 個人にフォーカスした機能開発を行い、「個人単位にIDを付与する」ことに価値があると訴求できるように
Q. プライシング変更時、既存顧客への展開はどのように行ったのか?
初期顧客は企業のファンだという想いで、値上げをしていない(スタディスト)
- 企業のポリシーだと思うが、過去の顧客に対する値上げは行っていない。
- 初期のお客様は企業の成長を支えてくださった大事な存在
- 「お客様はお客様を連れてくる」という考え方のもと、未来を見ている
まとめ
どんなSaaS企業も何を事業のバリューとするかを見極め(これは変化進化していっていい)、それを自信をもって設計し、顧客にわかりやすく伝えていくこと、またそれを絶えず考えチューニングし続けているということが改めてよくわかるセッションでした。
冒頭の稲盛さんの言葉ではないですが、プライシングは徹底した自己理解(自社理解)であると同時に、永遠にチューニングし続ける営みであるということをつくづく思わされます。
そんな次第で当日のラストでもCMいたしましたが、プライシングにこそPDCAが重要であり、そのためには製品、人材などの仕組みづくりが必要なわけです。
まさにScalebaseは、この商品設計やプライシングにおけるチューニングとフィードバックサイクルを回せる仕組みを提供しています。
もちろんプライシングのみならず、そこから始まる契約・請求管理・分析などが一体となっており、契約請求管理のあらゆる課題をScalebaseは解決していきます。(一体となっているからこそフィードバックサイクルが回せるというカラクリです)
Scalebaseのご説明もそうなのですが、プライシングの考え方・フレームワークや事例やフリーなディスカッションも随分とできるようになってまいりました。今回のお話を皮切りに、プライシングや商品設計の角度でもご相談に乗れること、たくさんあると思います。是非気になる方・お困りの方はこちらにてご連絡ください。(Zoomにて)お伺いいたします!
また、プライシング、特にSaaSのプライシングについては今後noteにて発信をしていきたいと思っています。もし気になるテーマやご質問があればそれもまた随時ご連絡いただけると非常に嬉しいです!DMでも大歓迎です!
考えているテーマ(例です)
- Scaleble Pricingとは何なのか
- Pricingの変更、値上げについて(タイミングやコミュニケーションなど)
- プラン・商品の設計の考え方
- ディスカウント・キャンペーンの考え方
- 価格ページの最適化
- PQLについて
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