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夏のイサキで塩焼きを見直す
塩焼きを忘れた私たち
魚の塩焼き。なんと素朴で原始的な食し方なのでしょう。あまりに原始的で私たちは塩焼きを軽んじてきたのではないでしょうか。
やれカルパッチョだ、やれアクアパッツァだなどと浮き足だったことを言って、基本の基本、塩を振って焼くというシンプルな魚の食べ方をいつのまにか忘れて、私たちはどこを目指し、何を得たのでしょう。
ムニエル、ポワレ、それもいいかもしれない。しかし時に自分には、そんなキラキラしたレシピの全てが、味玉・海苔・メンマ・焼き豚その他全部のせ1200円のラーメンぐらい、いきすぎた虚構に映るのです。
魚に塩を振って焼いて喰らう。シンプルな塩焼きを今一度見直してみます。
夏のイサキは塩焼きが絶品
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週末に全8匹あった釣り魚も、残すはイサキ1匹となりました。夏が旬とされるイサキは、流通や冷蔵が発達していなかった時代には塩焼きが定番の食べ方だったそうで、味は高級魚級ながら、気軽な塩焼き魚として庶民の食卓にのぼる、ひと言でいえばつまりいい奴なのです。見た目もスマートで2枚目。こりゃモテるわ。
この最後の1匹のイサキを、塩焼きにしていただくことにします。といってもなに簡単。だって塩振って焼くだけだもん。ちょっと知能の高いナメクジちゃんでもつくれる料理です。手間も工夫もへったくれもありません。
手間なし簡単?な塩焼き
では早速塩焼きにとりかかります。コツはないです。唯一気を付けるとすれば、エラと内臓を取ったあとに血が残らないように腹の中をしっかりときれいに拭き、キッチンペーパーで水気を吸い取ることぐらいでしょうか。
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したらば、余分な水分をとるために、全体に軽く塩をふって冷蔵庫で30分~1時間ほど寝かします。出てきた水分はキッチンペーパーでふき取りましょう。なに、下ごしらえとも呼べない程度の作業です。
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したらば、次に皮目に2か所ほど飾り包丁を入れておきます。焼き上がりがきれいになります。ポイントといえばこれぐらいのもんです。
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そしたら今度は、食べる時用の塩を全体に振ります。この際、尻尾やヒレなど焦げやすい箇所に多めに塩を振る(飾り塩)と、焦げにくく焼き上がりがきれいです。コツといったらこれぐらいのことです。
ちなみに、唯一の調味料となる塩はできるだけ良いものを使うのがおすすめです。間違ってもお父さんのワイシャツに染みついた汗から精製した塩などは使わぬようお気をつけください。せっかく除去した臭みとは違う臭みが加わってしまいます。
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さあ、もうほぼ完成です。あとは焼くだけ。お待たせしました。
家庭用グリルで焼く場合、皮がくっつかないようにあらかじめ5分程予熱でグリルを温めておきます。注意する点といったらこれぐらいのことです。
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さあさあ、10分も焼けばほら、イサキの塩焼きの完成です。なんて簡単なのでしょう。何の工夫も手間もいりません。ありあわせの野菜でも添えてあげれば見栄えも良くなり食欲も増すでしょう。
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見よ、この美しき皮の焦げ具合。これぞ日本人の魚の正しい食しかた。まるで武士のめしだ。おやじ、米もってこ~い。
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ということで、とっても簡単な魚の塩焼き。なんの工夫もコツもありません……じゃねえ!
ひと手間ひと手間と、何手間かかるんやい!めっちゃくそいろいろやらなあかんやんけ。魚焼きグリルの掃除もめんどうだし。
しかしこれらのコツや工夫を無視して、買ってきた魚に何も考えず塩振って焼いた結果、グリルに皮がベチョリンコ、尻尾が丸焦げで引火して大火事、焼いても妙に生臭くて腹下し、焼きすぎて身がパサパサで白目……といった悲劇に見舞われた例は枚挙にいとまがありません。
そんなだから、塩焼きは今やあまりフューチャーされないレシピになったのかしら。
でもね、鯛やイサキ、スズキなんかの白身魚を塩焼きにすると、驚くほど魚それぞれの皮の味、身の味、歯触り、香り、などが際立ち、あ〜自分は今、魚を食っておるんだなあとしみじみ美味いものです。
ムニエルやフライも良いけれど、たまには旬の魚で塩焼き、どうでしょう。