【書評】「土地法制の改革 土地の利用・管理・放棄」(山野目章夫 有斐閣)
伊藤塾講師の蛭町です。今日は,2022年2月に有斐閣から出版された山野目章夫先生の「土地法制の改革 土地の利用・管理・放棄」の話をしたいと思います。
執筆者の山野目先生は,2017年=平成29年の山野目研究会の座長,それに続く2019年(平成31年)3月から2021年(令和3年)2月まで,全26回の法制審議会の民法・不動産登記法部会の部会長を務めた所有者不明土地問題を解決するための民法,不動産登記法改正の中心人物です。そのため,この本は,今回の改正がどのような思想の下に行われたのかを知るための格好の参考書となっています。
まず,山野目先生は,所有者不明土地問題は,昭和の高度経済成長期にもあった現象だが,開発業者の経済的利益により解決され問題化しなかっただけで,今回,東日本大震災などの大災害を切っ掛けに所有者不明土地を地域に役立て,適正に利用することが問題となり,これは市場に任せられない問題として制度改革が必要になったとしています。
すなわち,所有者不明土地問題は,土地の保有に関心を失う相続人と土地利用の再編成を望む地域社会のミス・マッチがその本質であり,人口減少により所有者不明土地問題が増えたという考え方は,量の問題が質の問題をもたらす不思議な考え方だと批判しています。
次に,山野目先生は,所有者不明土地問題を解決するための民法・不動産登記法の改正を「令和3年土地制度改革」と位置づけています。
これは,法として憲法には優先しないが,個別法に優先する「土地基本法」と個別法である民法,不動産登記法を車の両輪とし,人口減少に向かって,土地の「適正利用」に加えて「管理」の観点から土地政策を再構築したという意味です。車の両輪というのは,理念しか示せない土地基本法で,改革の理念を示し,具体的な担保措置は民法,不動産登記法で実現するという考え方です。
そのため土地基本法には,6条1項は,土地所有者等が,土地の基本理念に則り,土地の利用,管理,取引を行う責務を有し,6条2項で土地の所有者は,その所有する土地の登記手続その他の権利関係を明確化する措置,また,土地の所有権の境界の明確化のための措置を適切に講ずる責務を負うとしています。
皆さんも,権利の登記である相続登記,名変登記に登記義務が課され,職権登記が拡張するという当事者申請主義の例外ともいえる改正内容に驚かれたことと思いますが,これは,民法,不動産登記法が従わなければならない基本法として土地基本法で所有者等の責務が明確にされたことをその根拠とするものです。
今回の改正により不動産登記法は,単に民法の助法,手続法という位置づけだけではなく,土地政策を支える重要な基礎情報原という位置づけの変化によるものととなります。
今回紹介した山野目先生の著書である「土地法制の改革」は,これから本格的に施行されていく所有者不明土地問題解決するために車の両輪となっている土地基本法,民法・不動産登記法の改正が,どのような考え方に基づくものかを平易に語るものとして,これから改正法の対策に取り組む受験生にとって有益な情報を提供する本となるものと思います。
伊藤塾司法書士試験科 講師 蛭町浩
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