鍵の村で考えたこと60.61.62
モノづくりの原点
私たちはシャプラ村事務所の書類を保管するための木製キャビネットを作ることにした。日本ではキャビネットはどこに行っても簡単に買えるがポイラ村ではそうはいかない。ポイラ村での一か月もかけた木製キャビネット作りをレポートしよう。
私たちはキャビネットを作れる村の大工さんを探し、どんな大きさの木が必要なのかを聞くところから始めた。そして両腕を回してぎりぎり手の届く位の大きさの立ち木を売りたい人を探して、訪ねていって購入した。次にその立ち木を伐採して板にして、事務所の前まで運んでくれる人をお願いした。
もちろんその都度代金の相場を事前に調べておいた。木を板にするために当時行われていたのは2~3mの高さに丸木を置き、鋸のひき手の人が上と下に分かれて大きな鋸で1枚1枚板を作っていた。その板を2人がかりで何回かに分けて頭に乗せて運んでくる。
板がそろうと近所の大工さんが6歳前後の息子を連れて、キャビネット作りに1週間位通ってきて作ったのだった。見ているとカンナが日本とは違う。日本は手前にひく時に削れるがバングラでは押す時に削れる。このキャビネット作りで日本人がもう忘れてしまったモノづくりの原点が経験できたのだった。
自然の音だけ
普段の生活では車の騒音や機械の音はまったくしない。自然の音だけだ。そんなところで育つ子供たちは音楽に対する耳がすごくいい。びっくりしたのは昼間8歳位の男の子たち4~5人が追っかけごっこをしていた。彼らは全速力で走りながら声を合わせて歌っていた。
それもびっくりするほどきれいにハモリながら走っていたのだ。そのハモリ具合は今のカラオケマシンだったら90点を超えるような完璧なハモリ具合だった。私は自然の音しか聞こえない環境が音階をクリアーに聞き分ける耳を養ったのではないかと想像した。
ジャズの世界
アバズミアおじさんはお隣さんだ。日が暮れて辺りが暗くなると道端の椅子に数人の男性が集まってくる。アバズミアが竹の縦笛で即興の悲しい曲を吹いていた。その響きはまるでジャズの世界なのだ。
音符などはないからその都度一回きりの曲なのだがその時の彼らの心を反映しているようなもの悲しい音色だ。この音色を奏でている笛は日本のまつりの夜店でも売っているような竹で作った縦笛なのだ。
普通のおじさんアバズミアはこの時は一流の演奏家になっていた。一般に知られている曲もあるが村では即興でその場限りの曲を奏でることが多い。録音機はポイラ村には持ってきていないのでその演奏曲は二度と再現されることはないが私はジャズってこんな感じで生まれたのではないかと感じていた。