オールウェーブ、試験やめないってよ【美容師国家試験の闇】
操作イトウです。
今回は、一般の方からしたら「なんのこっちゃ」な、お話。
それは2023年7月4日に行われた、『第5回美容師の養成のあり方に関する検討会』について。
むしろ多くの現役美容師や元美容師、美容学校卒業生、美容業界関係者に読んでもらえるとありがたいと思います。
すでに2ヶ月近く経っていますが、おそらく現役美容師さんの1%もこの検討会について把握していないと思うので、これについて真面目に解説します。
というのも僕自身は、美容業界の企業に勤める兄から報告されて知る機会を得ましたが、この内容が現場の美容師の耳に届く機会は少ないのです。
これらの説明はあくまで、現役美容師である僕の私見を絡めてお話をするので、業界内の物事をフェアに捉えられない部分が多々あります。ですので、一美容師の意見として組んでいただければと思います。
ご意見があれば、議事録を読んでいただいた後に寄せていただければ幸いです。
これまでにも「美容学校の形骸化」について、何度も触れてきました↓
◾️【議事録を要約】それぞれの経緯は?
14ページに及ぶ議事録は、基本的に会議中のおしゃべりを丸々文面に起こしているものなので、口語体が多く、読み慣れていない方には難解に感じると思います。
更にディベート中は、言葉の角が立たない喋り方をするので、まどろっこしい表現が多過ぎて、ちょっと読みにくいです。
これらを要約すると、3つの議題についてを討論し、決議しています。
① 「まつ毛エクステンション」の試験課題の導入は、学校側の授業の導入率がまだ低いので、保留。
② 「ヘアカラー」などの新しい試験科目や、「オールウェーブ」などの整理が検討される試験科目についての変更はなく、現状維持。
③ 美容室の社会保険の加入、労働基準の順守を推進するため、厚生労働省から通知を発出。
▼①の「まつ毛エクステンション」の試験課題について
①に関しては、「まぁそうでしょうね」といった印象です。
これは元々、数年前にまつエクの薬剤を用いる事故が多発したことがきっかけ。眼科医側から「早急な対策を」と議案に出されているのだと予想しますが、責任の所在の“受け皿”に回っている美容師免許の体制からすると、受講する時間を作るのがとっても大変、というのが本音ではないでしょうか。
そして、提案されているのが「試験課題に」ということなのですが、これについてはハードルが高過ぎる気がします。
試験課題になるって事は、美容師を目指す全員が技術を習得する必要があります。美容学生は、そもそもまつエクが目的“ではない”学生が過半数のため、今後も利用することがないであろう学生に至るまで、猛練習しなければなりません。
更に、まつエク自体の市場が現状そこまで大きくはなく、トレンドも含めて今後の見通しとして必要なのかも疑問です。
▼③は、若手美容師の待遇が悪過ぎる件について
今回は②が本題なので、後回しにして先に③についてお話します。
これは、若手の美容師の離職率に対しての議案です。
若手美容師は、一人前になるまでの間、低賃金を余儀なくされます。小規模で運営する美容室が多い会社側は、これを考慮して少しでも手取りを増やすために「社会保険の加入をしていない」という選択をしてきていて、今でも常態化している、という実態があります。
そして、若手美容師は「夜遅くまで練習している」印象も強いですが、その時間に“お給料が発生していない”ことを指摘しています。厚生労働省からすれば、『それって“残業手当て”じゃないの?払ってなきゃ違法だよ!』と。
これについて美容室側は、『営業時間外の練習は「自主練」であって「残業」ではない』という名目で、永らくグレーゾーンを貫いてきました。
つまり、「社会保障を受けていないこと」「過度な労働時間」が常態化していて、『待遇が悪過ぎるから、若手の離職率に繋がっているんじゃないの?』という議案なのです。
▼②オールウェーブは、まだ動かない
流石に現場の美容師でもココについての話は知っているかと思いますが、昨年にはメディアにも取り上げられ、幾許か世論の議論の対象になった「オールウェーブ、いらなくね?」問題。
試験課題は改正せず現状維持、とのことです。
現状、全国のどこの美容室でも施術されることがほとんどない「オールウェーブ」という技術。それが美容師免許の試験課題であるため、学生は皆、2年間必死になって練習しています。
現役美容師からすると「はぁ?」って感じです。「いつまでそれやんの?」と呆れ顔。
ですが、強固な権力を誇る学校ビジネスによって隔てられた壁は高く、「試験内容を見直してください」という話を現場サイドから通すのは、茨の道です。
今回は杞憂に終わったココについてを、説明します。
◾️レベラル派のJABSって?
この議案についてレベラル派に立つのが、JABS(一般社団法人 日本美容サロン協議会)。
まだまだ日の浅い彼らがこういった場に立つようになっただけでも進歩、と言えるのかもしれません。ですが協議会には、業界人なら誰もが知る影響力のある方も多く名を連ね、「現場の美容師の意見を参考にしてほしい」「学校での指導内容を現場が求めるものに」という活動に協賛しています。
▼「学校でもっとできるじゃん?技術の指導を丸投げすんなよ」
そんな彼らの意見を、僕が“究極に捻じ曲げて”代弁するなら、
「美容学校の2年間のうちに、ホントはもっとできるじゃん?技術の指導を、現場に丸投げすんなよ」
です。
美容師は「美容師免許」を取得するために、2年(定時制なら3年)の修学を必要としています。その後、就職先でアシスタントとして3〜5年の修行期間を必要とし、その間に低賃金での就労を余儀なくされています。
その期間が長く厳しいことから、若手は辞めていってしまう、という現状です。
【美容師が一人前になるためのプロセス】
学校で2年(美容学生)
↓
就職して3〜5年(アシスタント)
↓
一人前の美容師(スタイリスト)
▼卒業生は美容学校を卒業しても、何もできない?
ですが修行期間が長い理由として、卒業生が「美容学校を卒業しても、何もできない」ことが拍車をかけている、とも言えます。そもそも学校で取り組む技術レベルが低いことから実践に活かせず、更に“利用することのない技術”に時間を割いています。
そのため、現場では『戦力になるまで「指導する時間」「練習する時間」が必要になり、その期間は低賃金にせざるを得ない』というデフレスパイラルを招いている。
これを改善してほしい、という意見なのです。
一斉を風靡したカリスマ美容師ブームから、もう20年も経ちます。少子化を伴い、いよいよ若手の成り手が少なくなった現在、どこの美容室でも「3〜5年かけていた指導を、1〜2年に短縮している」という企業努力をしています。
これらは指導面の無駄を省いている反面で、「本当は必要」と考えていながら、早く昇格させるために短縮“せざるを得ない”という一面も含んでいます。
◾️オールウェーブを引き合いに出す理由は?
JABSは改革の第一歩として、“利用することのない技術”であろう「オールウェーブ」という技術を矢面に挙げることで、話を進めていた様子。
JABSがここで問題提起しているのは、“現場で使わない”とされる技術が、今後も「試験課題として残る」ことです。
試験課題ってことは、「国家試験の本番に合格するため」の時間を割かなければいけない。試験課題でなくなれば、必修科目としていくらか講習すれば良いだけなのです。その期間でもっと実践に活かせる練習ができれば、もっと早くアシスタントの期間をクリアできるのです。
◾️これは、強大な既得権益との戦い
現場の美容師は、この問題に対して諦めモードで「まだそんな議論しなきゃいけないの?」と疲弊しています。でも諦めたら、今後も権力に丸め込まれるだけです。誰かが提起し続けなければならないのです。
残念ながら議事録を読む限り、あまり建設的なやりとりはできていません。特に、学校サイド(公益社団法人 日本理容美容教育センター)の方の言動に、現場の意見に対するリスペクトを感じないのは不快です。「指導法に間違いはない」との一点張りで、このような場でJABSに対する断定的な物言いでフェアに話ができていない事には、憤りを感じます。
「圧倒的な若手の離職率」を招き続けている美容業界ですが、今後も美容師を志す若者たちには不利な環境が続きます。
先輩としては「がんばれ」としか言えないです。だからこそ、沢山の美容関係者にこの現状が伝わってほしいと思っています。
ではまた。
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