できると信じる
給食準備中に,Kさんが慌てた様子で教室に戻ってきた。Kさんは給食当番で給食室へと行ったはずだった。
「先生,魚が落ちました。」
正確には“落としました”だよなと思いながら聞いていると,
「ティッシュどこですか?それから,ビニール袋は?」
どうやら,すでに片付けのことを考えているらしい。もしここで,「どうすればいいですか?」と聞こうものなら,「自分で考えて」と言うところだった。
しばらくして給食室に行くと,KさんとNさんが落ちた(落とした)魚を片付けていた。T先生が助けてくれていた。T先生に悪いなと思いながら,
「Kさんたちは自分でできます。ありがとうございます。」
と伝えた。実際,KさんとNさんは無言で一生懸命に片づけをしていた。
ここまで私は,ほとんど何もしていない。しいて言うなら,「できると信じて待った」ことだ。
そして,ここからが「失敗から学ばせる」ために私が行った行動である。私は,次のことをクラス全体に伝えた。
まず,失敗をしてしまったKさんとNさんは素晴らしい。それは,失敗したときに2人で役割分担をし,Nさんはすぐに片づけを始め,Kさんは先生に報告に来たんだ。そして,自分たちでどうすればよいかを考え,判断し,実行した。その後,先生とどうすれば同じ失敗を繰り返さないで済むかを考えることができたんだよ。凄いと思わない?
そして皆さんも凄い。普通,給食が散乱してしまったら「マジー!?」「えー,やばーい」等と大騒ぎしそうなものだけど,皆さんは全然そんなことなかった。それどころか,残った魚をどうすれば全員に配分できるかを考えていた。実に前向きな行動で,この行動にKさんとNさんがどれだけ救われたことか。
どんな子供に育ってほしいかと考えて行った行動である。正解か,間違いかはわからないが。ただ,困っているKさんを見て私が手を差し伸べていたら,子供の「考えるチャンス」を奪っていたであろう。また,教室で魚の配分を考えている様子にも気づけなかったであろう。
小さく配分された魚を,大事そうに食べるKさんが印象的だった。