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そのジャンルの音楽を愛するファンも一定数いて、その音楽を、レンタルというかたちで提供する店があった。さよなら、ジャニス

 お茶の水ジャニス本店が閉店した。とても残念である。コアな品揃えを誇るレンタルCD&DVDショップとして、37年間、営業していたお店だった。
 と書くと、私がよく利用していたようだが、そうではない。大昔、たしか1990年代、フリッパーズ・ギターが利用していたという話を聞いて、どんな店なのだろう、と興味を持って、行ったことがあるくらいである。もちろん、会員登録もせず、レンタルもしなかった。
 そのころ、ジャニスは、場所は同じお茶の水だが、いまとは、ぜんぜん違う場所にあった。たしか、スキー用品を販売しているビルの上階にあり、エレベーターに乗って、上がっていった記憶がある。
 洞窟の中に入ったような店だった。見知らぬ名前ばかりのレコードが並んでいて、「すげえマニアックだな」と思った。そのころ、私は、若く、お金がなかったので、頻繁にレンタルCD&DVDショップを使っていたが、やはり気軽にレンタルでき、返却できる地元が便利だった。
 その後、職場が神保町の近くに移り、ランチの時間に行って帰ってこられるようになったので、中古販売をしていたジャニス2は、かなり利用した。
 閉店した現在のジャニス本店の建物には、昔はジャニス2が入っていた。時間軸が正確ではないが、ディスクユニオン神保町店も当時は、岩波ホールの交差点のすぐそばにあり、ディスクユニオンに寄り、ジャニス2に行くという流れで、中古CD(レコード)を買っていた。
 当時の私は、テクノ目当てだった。
 タモリ倶楽部「空耳アワー」でジャニス閉店のニュースを聞き、ジャニスの閉店セールにいってきた。
 閉店理由は明らかにされていないが、ネットで関連情報を調べていたところ、店長だった、クリエーターのGeodezikさんが諸般の事情で辞め、1年後に閉店に至ったという。
 テクノ、アングラ・ヒップホップなどのコアな品揃えについては、Geodezikさんの見識・経験に負うところが大きかったのだろうか。
 ジャニス本店に着くと、行列ができていて、整理券が配られていた。
 店に入ると、聞きしにまさるコアな品揃えである。ジャンル分けがすごい。辺境派、などというのがある。イルセントリック・ヒップホップ。イルとエキセントリックをプラスした造語だろう。ジャンルが入り混じった、アングラヒップホップのことを指すようだ。音響、ポストクラシカル。まあ、このへんは、一般的なジャンルとして認知されているが、リスナーがどれほどいるのだろうか。
 最終日を含め、数回にわたって通い、テクノ、イルセントリック・ヒップホップ、音響、ポストクラシカル、ロック、ダブ、ボサノバなど、さまざまなジャンルのCDを大量に買い漁った。
 最終日の夜は、行列の人数が半端なくすごかった。店のまわりには、ジャニス閉店の名残りを惜しむ人々のすがたが多く見られた。
 さきほど私は、このようなCDをレンタルするリスナーがどれほどいるのだろうか、と書いた。だが、すぐに撤回したい。
 これだけの人数の、コアな音楽を愛するファンがいるのである。
 Twitterで確認すると、9時閉店のところ、結局11時までやっていたという。
 CDやダウンロード数で、多くの人々に聴かれている音楽がある。もちろん、それほど多くの人々に聴かれていない音楽もある。だが、多くの人々に聴かれていないからといって、ファンがいないわけではない。そのジャンルの音楽を愛するファンも一定数いて、その音楽を、レンタルというかたちで提供する店があった。
 そういう店で、出会う未知の音楽があった。
 それがジャニスというレンタルCD&DVD店だったのだろう。

 ジャニスがなければ出会えなかった音楽が沢山ありました!!長年、ありがとうございました!!

 店内のPC端末に、お客と思われる付箋が、ぺたりと貼ってあった。

 私にはジャニス本店の思い出はない。けれど、なんだか泣きたくなった。

(トップの写真はジャニス店内にあったお客からの付箋、記事の最後の写真は、最終日、閉店時間近くのジャニス入店を待つお客の行列。閉店の名残を惜しんでいるお客さんの姿も見られる)

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緒 真坂 itoguchi masaka
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