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救急車の搬送員
私は、救急車に乗車したことがある。
搬送された当人ではなく、付き添いとしてだが。
救急車というと、すぐに救急病院に運んでくれるイメージだが、実際にはそうでもない。本人の名前や生年月日から始まって、症状をあれこれ聞かれる。症状に合わせた、受け入れ先の病院のセレクトには、情報が必要だからである。到着してから発車まで、20分~30分、搬送員とのやりとりがある感じだろうか。
世の中は、手続きでできているのである。
Sudden fiction、超短編、いわゆる掌小説です。あっという間に読み終わります。
*
私は救急車の搬送員である。
119番通報で呼ばれ、到着した。
「これまでなにもいいことがなかった。ちきしょう、死んでしまいたい」
頭の禿げた男の老人が路上に座り、泣きわめいている。腕には自傷行為らしき傷跡が、なまなましく幾本も刻まれている。
その一本からおびただしく出血している。
「この世は地獄だ、それ以外に呼びようがない」
迷惑そうに通りすがりの人々が遠巻きに老人を眺めている。
暴れる老人を私たちは何とかして救急車に乗せた。
私はようやっと男の名前を聞き出した。
専門病院に受入れを要請した。
「そのひと、うちの院長です」
患者の名前をいうと、恥ずかしそうに電話の相手はいった。
(シリーズ「未来はありません」⑥)
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