フランソワ・トリュフォー監督「恋のエチュード」
若いころは、お金がなかったが、それでも本を買っていた。レンタルビデオ屋になかったビデオは、なんとかやりくりをして、ビデオを買っていた。食事を抜いても、本やビデオを買っていた。
あの情熱はなんだったのだろう、と思う。たしかに、いまでも本を買っている。あのころ以上に、本を買っているといってもいい。高価な本やブルーレイボックスだって、買う。とても読み切れないことがわかっているのに、それでも買っている。
でも、なんというのだろう、いまは、あのころあった情熱は、失われてしまった気がする。
これはフランソワ・トリュフォー監督「恋のエチュード」のビデオ(!)である。
数十年前のことだ。トリュフォー監督のファンだったので、この映画を観たかった。が、近くにあるレンタルビデオ屋を何軒めぐっても、見つからなかった。あるとき、決意して、購入した。
値段は1万4,800円。相当高価である。当時のビデオは、平均、それくらいした。だから、みんなレンタルビデオ屋で借りて見たのである。
ちょうど10年前に公開された、トリュフォー監督「突然炎のごとく」は話題作だった。この作品と原作者が同じである。だが、これはそうはならなかった。日本未公開作品だった(公開当時、本国フランスで批評家は酷評したらしい)。エピソードの積み重ねでできている。静かで、美しい恋愛映画だった。
ああ、観てよかったと思った。
そういう個人的な思い出とともに、忘れられない一本である。
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