見出し画像

予約でいっぱいの店

 そのイタリアンの店に行くのは、2回目だった。
 一人で経営している店である。
 夜しか営業していない。料理と酒を楽しむ店だ。
 1回目、私たち夫婦は、酒を飲めないので、料理だけを注文した。
 2回目のその日、私たちは店のドアをあけ、店内を見渡した。
 客は誰もいなかった。
 店主はいった。
「満席です」
「え。でも」
 私たちはとまどった。でも、店には誰もいない。
「本日は、満席です」
 店主は繰り返した。

 店には客がいなくても、予約でいっぱいである、ということはあり得る。いまは、たまたまいないだけだ、と。
 しかしながら、最寄りの駅から徒歩で二十分はかかる住宅地にある店である。1回目に行ったとき、客は、地元の人間だけのように見えた。予約して、遠方から足を運ぶ客がさほど多いとは思えない。
 私たちが酒を飲まなかったことを覚えていて、コスパの悪い客だと認識した。だから、断ったのではないか、という疑いがぬぐい切れない。

 その店は、いまも続いている。毎日のようにその店の前を通る。

いいなと思ったら応援しよう!

緒 真坂 itoguchi masaka
サポートをいただけた場合、書籍出版(と生活)の糧とさせていただきますので、よろしくお願いいたしますm(__)m なお、ゲストのかたもスキを押すことができます!