「ストーカーレポート」第2話アキバメイドの悲劇②を更新しました
小説サイト「NOVEL DAYS」にて、「ストーカーレポート」第2話アキバメイドの悲劇②を更新しました。
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私の目の中を、何かがかすめてすぎた。手だ。
空気の揺れで鋭敏に察知できる。煙草の銘柄を言われて客に背中を向けているときであっても、陳列してある棚の上の商品のヨーグルトが四個消えたのに、気がつかないわけがない。
いちいち面倒くさいので気がつかないふりをしているだけだ。
コンビニの店内である。
万引き犯は、顔じゅうこまかいしわが刻まれて、歩くのさえままならない、棒きれのように痩せた老人だった。
頼みの綱の杖さえ、ガタガタと震え、いまにもすとんところびそうだった。フェルト帽子をかぶり、高級そうな黒い厚手のコートを着ていた。
この老人は、一日一回、必ずこのコンビニに足を運んでいる。男の名前は、由比信之助。年齢は、八十六。なぜ知っているのかというと、調べたからだ。
私はそっと近づいていって、由比の手首をいきなりつかむと、こちらにどうぞといった。由比は狼狽しているようだったが、抵抗せずに私に従った。もっとも抵抗するには、あまりに年を取り過ぎている。私の手を振りきって、走って逃げるちからや気力は残っていないのだ。
従業員用の控え室で、休憩中のバイトをどかすと、由比と向かいあった。
万引きのことなど、どうでもよかった。由比だからつかまえたのだ。話を聞ける絶好のチャンスだと思ったのだ。テーブルの上には万引きした四個のヨーグルトが置いてあった。
「これで何回めですか?」
私は尋ねた。
由比は無言で、うつむいていた。深いしわは刻まれていたが、品のある顔だちをしている。
貧乏のはずはなかった。由比は定年退職しているが、私立大学の名誉教授で、高額の退職金をもらい、年金だって十分に受け取っているはずなのだ。大金持ちといっていいくらいの貯蓄だってあるはずだ。
「どうしてこんなことをしたのですか?」
由比は、頑なに無言だった。ぜったいにしゃべらない決意をしているように見て取れた。
「警察を呼んでもいいのですよ」
私はどんな反応を示すか興味をそそられて、いってみたが、由比は眉根をぴくぴくと動かしただけだった。
「新聞記事になるかもしれませんよ。私立大学名誉教授、万引現行犯で逮捕」