はじめての老い -センパイの話-
たぶん5歳ほど上のセンパイがいます。ミュージシャンの戸田誠司さんです。つい先日京都で戸田さんとご飯を食べまして「老い」についての助言をいただきました。いやあ、面白かった。
戸田さんの正確な年齢は知らないんですが、20代前半からの付き合いで、人生の要所要所でフラッと現れては謎の助言を残して去っていくというセンパイであります。そしてそろそろ音源出してくれやと言いたい。来年で前のアルバムから20年ですよ。
それはさておき「謎の助言」ですが、ちょっと年上ということもあって「これからの年齢で起こること」についてもいろんなことおっしゃるんですね。
非常に印象に残っていて、私の友達たちの間で伝説になっているのが、
「40代になると濃霧がやってくる」
ですね。
え、濃霧?
僕が40代に突入しようという頃。当時、私はマンガ家でありつつマンガ家でもあり時にマンガも描いたりとマルチに活躍しているタナカカツキさん(この原稿の題字も描いてくれてます)とゲームを作っていたのですが、例によって戸田誠司さんがふらりとやってきて、ミッド40代の立場から、話してくれたんです。カツキさんあたりから「40代の憂鬱」についての質問があった時でしたっけね。「40代はね、、、、、濃霧がくる」と戸田さんが言うわけですよ。我々一同は凍りつきましたわ。ゴクリとつばを飲みこんで「の、濃霧、、、、」「マジっすか、、、」「なにも見えないんだ」「めちゃくちゃ怖いじゃないですか!」「どうすればいいんですか!」「チョムスキー?」「たすけて!」と救世主に詰め寄る感じのアレです。
それからの我々は、いつ眼の前に立ち込めるやもしれない濃霧に怯えながら、そして備えながら日々を暮らしました。(私の濃霧は50歳くらいで来ました)
戸田さんは、そんなふうに、ふらりとやってくる預言者みたいな、そういう存在なんですよね。音源を作ってほしい。
そういえば、2年半ほど前、私が東京から京都に移住する直前にも家の近所までふらりとやって来てくれまして、その時も「老い」について話をしていたのを今思い出しました!
その時はまだこの原稿のシリーズには着手してなかったのですが、当時から気になっているテーマだったのか、戸田さんにいろいろと質問したんですよね。年齢を重ねることで、困ってることは何なのか。これから私の身になにが起こるのか。
その時もまた、印象深い一言をいただきました。
「記憶のプリントが薄いのよ」と。
記憶のプリントが薄いって、どういうことですか?
「若い時はさ、最近の出来事は鮮明に覚えていて、だんだん記憶が鮮明じゃなくなってくるでしょ? 記憶が薄くなってくる。それが忘れるってことだよね。アレがさ、最初からうっっすいの」
あーー、薄れていくスピードが早いんじゃなくて、プリントしたばっかりの状態から、うっっすいんすか。
「そう、うっっっすいのよ」
プリントの圧がもうそもそも?
「そうそうそうそう、圧がもう全然かかってない」
刷られたそばから薄いと。
「そう」
そうなってくると「もの忘れが早い」みたいなこととは、ちょっと違った話になってきますね。最初っからうっっすいと。
「むかしのことは、全部うすいじゃん? そこに刷られたばかりのものも、うすいんだわ」
それはヤバいですねえ…..。想像すると、遠い過去と、つい最近の差がちょっとしかないってことですよね?
「そうなるよね」
それが来るんすか。
「来るね、ガビンにも、もうすぐ」
マジデスカ…
この会話から2年半が経過しました。わかる気がする。たった2年でわかるような気がしてきてる。
脳内の、過去と今との距離が、どんどん近づいてる気がする!
これがこのまま近づいていくと、今日のことのように毎日同じ少年期の話をするおじいちゃんになるんだなぁということがリアリティを持って感じられるようになった。なるほどなあ。そういう仕組みか。
そして、ここからが、つい先日の話です。
「ガビンの書いてるアレ(この原稿のことです)さあ、まだ入学前だよね?」
いきなりきた。入学前ですか?
「『老い』の入学前の状態で、なんならちょっとウキウキしてるくらいの感じだよね」
あたたた。そうですか。受験が終わって入学が決まって、本人はもう大学生気取りだけど。
「そう。入学してからのことを何も知らないという。高校卒業してから大学入るまでの一ヶ月の感じ。まだ入学してない」
やばい。
「おじさんからの卒業旅行中でしょ。まだ『老い』が来てないから、そんなもん書けるんだよね」
そんなもん!(この原稿のことです)
僕の知らない『老い』の世界がこれから来るんですね…どんな感じなんですか?
「絶望が来るね」
淀みなく言い切りますね。絶望……かあ、私もそれなりに絶望というやつ経験してきたような……。
「そう思うでしょ? それが違うのよ。脈絡ない絶望なのよ。老いには脈絡がないんだよ」
あ〜〜〜〜〜、因果とかで絶望がやってくるわけでなく….。
「急に大地震が来る」
マジですか。
「ガビンが書いてるのは、言ってみれば『さいきん、地震多いですよねえ』みたいな感じじゃん? 余裕があるんだよね。他人事なんだわまだ」
読んでて、むかつきますか?
「むかつきはしない。これから起こること何も知らずに…ぷぷぷ、とは思うけど」
世間知らずで笑われるやつ! まだそれあるんすか。この年で!? 内定もらった大学4年生が、後輩に「社会人とはな」って語ってるみたいな恥ずかしいやつじゃないですか。
「『老い』について語ってるけど、まだおっさんの最後を楽しんでるんだよね」
本当の老いは、そんなもんじゃないと。
「地球が割れるからね」
割れるんすか。
「突然、脈絡なく割れる」
怖すぎる!
「おじいちゃんになったら、たいへんだぞう〜〜」
まじすか……脈絡ないんじゃ備えようもないしなぁ…怖い…….。
ところで戸田さん、なに用で東京から京都まで来たんですか?
「このあいだテスラ買ったのよ。それで長距離ドライブしよっかな〜と思って」
それめちゃくちゃ若いやつがやるやつです!!
その体力で音源を出してくれ!
過去の「はじめての老い」はこちらのマガジンにまとめられています。
読んでくれ。
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