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いとちインタビューvol.2 | 永井拓先生 | 地域に根付き、暮らしに寄り添う

みなさんこんにちは!いとちの前野有咲ありさです。

医療と地域、「い」と「ち」の担い手によるコミュニティデザインプロジェクト「いとち」では、いわき市鹿島町にある「かしま病院」のスタッフや医師、地元住民やまちづくりのプレーヤーと一緒に、医療と地域のよりよい関係を目指し、さまざまな取り組みを行なっています。

いとちのnoteでは、現場の先生たちへのインタビュー、地域医療・総合診療についてのさまざまな情報、イベントレポートなどを発信していきます。

今回紹介するのは、現在、かしま病院で専攻医として働く永井拓先生へのインタビュー記事です。大学進学を機に福島にやってきた永井先生は、大学卒業後もそのまま福島に残り、一人前の医師を目指して研修に励んでいます。

研修医として、かしま病院でどんな研修を受けているのか、研修の中で印象的だったエピソード、福島に関わり続ける理由など、永井先生が福島で医師を目指す理由や想いを伺いました。

永井拓先生

【プロフィール】永井 拓(ながい・たく)
1993年生まれ、北海道札幌市出身。 福島県立医科大学医学部卒業。 2021年4月より福島県立医科大学地域・家庭医療学講座に入局し、総合診療・家庭医療専門医の研修プログラムを開始した。 福島市の大原綜合病院で半年間研修後、2021年10月よりいわき市のかしま病院に配属され、現在に至る。


人生の最後まで伴走する「総合診療医」

かしま病院では、永井先生をはじめとする実習生や研修医を、県内外から通年で受け入れています。永井先生は、専門医を目指す研修プログラムに所属する「専攻医」として、かしま病院で日々診察する、将来有望な若手医師のひとりです。

永井:現在は専攻医という立場で働いています。まだ研修中の身ではありますが、仕事の内容は、入院患者さんの治療や外来患者さんの診療をはじめ、救急対応、訪問診療、ワクチン接種、健診業務、リハビリ外来、日直・当直業務など、なんでもやっています。

かしま病院は、急性期(治療がすぐに必要な時期)から慢性期(今後長い間病気と付き合っていく時期)まで幅広く対応する病院なので、臨機応変に仕事をさせてもらっています。毎日忙しいですが、そのぶんとても充実した研修をさせてもらっています。

愛妻弁当を食べてエネルギーをチャージしているそう!

いわきに来てから、約8か月が経ちました。気候的に過ごしやすく、10分~15分車を走らせると海に行けるので、いい気分転換になります。いわきは魚も美味しいですよね。特にめひかりが好きで、よく食べています。

昨年からかしま病院での研修が始まったばかりですが、永井先生は、すでに診療科チームの一員として、総合診療専門医の先生と同様に現場で活躍されています。そんな日々のなかで、総合診療医の魅力を改めて感じた体験がありました。

かしま病院の総合診療科の先生と医学生・研修医のみなさん

永井:かしま病院に来てから経験した症例で、ある特定の症状で紹介されてきた患者さんが、実は癌の全身転移だったというケースがありました。その方は痛みが酷かったため、一度入院して痛みのコントロールを行ったのですが、「自宅で過ごしたい」という本人の意思を尊重し、在宅で過ごす方針としました。家でも可能な治療や、家でのサポートの方法をご家族と一緒に考え、環境を整えた上でご自宅に帰っていただきました。

その方は退院してから1週間で亡くなられたのですが、「亡くなる前日や当日も安らかな状態で逝きました。本人の希望を叶えていただき、ありがとうございました」とご家族から感謝されたんです。私にとって「最期まで診られる」ということも総合診療医の魅力だと感じています。

治療だけでなく、「どう最期を迎えるか」という終末期において本人や家族の想いに応えられたのも、「人生の伴走役」である総合診療医ならではの経験です。そしてその想いは、永井先生が目の前の患者さんに向き合い、日々のやりとりの中で信頼関係を構築してきたからこそ聞き出せた想いでもありました。永井先生にとって、大きな経験になったそうです。


学習・実践を通して力をつけていく医師の卵たち

先ほど、永井先生のことを「専攻医」として紹介しましたが、永井先生の医師としてのキャリアは、すでに4年目になるそうです。実際に医師として活動しているのに現在の立場は「専攻医」なんです。普段、医師がどのようにステップアップするかを知らない私たちにとって、医師の複雑な「肩書き」はちょっとわかりにくいようにも感じます。

そこで永井先生に、医師を目指す人たちは、一般的にどのような道をたどるのかを聞きました。

永井:医学部に進学した医学生は、大学を卒業するまでに6年かかります。はじめの4年間では、一般教養に加え、基礎医学と臨床医学を学んでいきます。

まず基礎医学ですが、人の体の構造や機能を支える仕組み、病気が生じてしまう仕組み、病気を予防・治療する方法を学びます。遺伝医学や予防医学、公衆衛生学なども基礎医学で学ぶ内容のひとつです。一方の臨床医学では、基礎医学で学んだ内容をもとに、実際の患者に対して診断、診療を行っていきます。

基礎を体系的に学び、4年次に行われる試験に合格すると、残りの2年間は臨床実習と医師免許取得に向けた試験を行います。臨床実習では、実習先の病院で、30以上あるすべての診療科を72週間にわたって回り、患者さんの診察、カルテの記入などを実践していきます。6年生の秋に卒業試験があり、卒業前の2月中旬に医師国家試験を受け、合格した人には医師免許が交付されます。

医師になるまでの道のりを、永井先生にお聞きしました

永井先生の話を聞いて、医学部に進んだ学生が6年間学ぶことを初めて知りました。通常、大学と聞くと「4年」をイメージしますが医学部生は6年なんですね。そこまで重要な情報ではないかもしれませんが、医学生がどうやって医師になるのかを知ることは、医師との距離を縮めることにつながるように感じます。

さて、医師免許を取得した後は、どうなるのでしょう!?

永井:臨床実習が終わると、国家試験の勉強が始まるわけですが、それと並行して、卒業後の研修先を決める「医師臨床研修マッチング」というのも行われます。医師免許を取得した後、このマッチング先の病院で、自分の専門分野を考える「初期臨床研修」を2年、専門分野を学ぶ「後期研修」を3年以上受ける流れになります。その後、認定試験に合格すると、晴れて一人前の「専門医」になれるのです。

専門医資格の取得は、専門分野の高度な知識や技術を持っていることが保証されるため、他の医師やスタッフからの信頼を得られやすくなります。医学部入学から専門医になるまで最短でも11年! それほどかかるなんて初めて知りました。

ちなみに現在の永井先生は、専門分野を学ぶ後期研修の2年目とのこと。昨年から、福島県立医科大学で行われている「地域・家庭医療学講座」を受講中で、その実習先としてかしま病院を選んだのだそうです。ようやく話が見えてきました。


暮らしに寄り添い続ける医師を目指して

永井先生は、地域住民全体の健康のために働く「総合診療専門医」を目指し、かしま病院で研修を受けています。永井先生が総合診療医を目指そうと思ったのは、初期臨床研修時代に「医師と患者の関わり」に疑問を抱いたことがきっかけでした。

永井:初期臨床研修時代に勤めていた病院は、主に急性期の患者さんを診ているところでした。命が危ない方を診ることは、医師としてとても大切な経験になりましたが、治療が終わるとその患者さんとの関係はそれっきりになってしまい、退院後の生活が見えにくいことが課題だと感じていました。診察や施術を行うだけでなく、患者さんの普段の暮らしも気にかけられる医師になりたい。その想いで、患者や地域に継続的に寄り添える総合診療医を目指すことに決めました。

かしま病院では、入院していない患者の診療を行う「外来診療」、院内のリハビリテーションや介護医療サービスを提供する介護医療院などで診療を行う「病棟診療」、個人宅やグループホームで診療を行う「訪問診療」などを行い、さまざまな人の「暮らしに寄り添う医療」を行っています。

戦後のベビーブーム時代に生まれた「団塊の世代」と呼ばれる人たちが、75歳以上の後期高齢者になる2025年。つまり、約3人に1人が、日常的に医療サービスや介護を必要とする時代がもうすぐそこまできています。地域で暮らす後期高齢者の人たちが、最期まで自分が望む場所で暮らしていくためにも、普段の暮らしに寄り添う医師が、今後ますます求められるのではないかと思います。


「い」と「ち」の距離を近づける一歩

今後、医療と地域のよりよい関係性を築いていくために、「診察される人/する人」という立場を超えて「接点」をつくれるかどうかが重要になっていきます。それを生み出すには、医師・地域住民双方からのアプローチが必要だと永井先生は考えています。

先日開催した「いとちかいぎ」で、医学生達と交流する永井先生

永井:平均寿命が延びて、長生きする人が多くなった現代では、肺の病気と腰の病気といったように複数の病気をもっている方も多いです。そういう複雑な健康状態を把握するためにも、まずは、永井先生にならなんでも話していいと思ってもらえる相談相手になりたいです。身体にまつわるちょっとした悩み事にも、ひとつひとつ向き合っていきたいですね。

大学時代にお会いした総合診療医の先生で、移動式のカフェでコーヒーを振る舞いながら住民の方から健康相談を受けている方がいました。私も、気軽に相談できる場所づくりや、地域の方へのアプローチ方法を考えていきたいと思います。


仕事(医療)と暮らし(地域)、両方を楽しんでいく

大学卒業後も福島県に残って研修に励む一方で、地域での暮らしも楽しんでいる永井先生。かしま病院での残りの勤務が限られている中で、最後に今後の目標を伺いました。

永井:もともとは、故郷である北海道が大好きなこともあり、大学卒業後は北海道に帰ることも考えていました。しかし、福島で生活していろんな人とつながりができるたびに、福島という土地や福島に住んでいる人のことが好きになっていきました。そして、ここで学んだものを地域に還元したいと思うようになり、福島に残ることを決めました。

今後のキャリアによっては福島県外に出ることもあるかもしれませんが、今のところは福島県で働き続ける予定です。また、いったん今年度で私はかしま病院での勤務を離れますが、いとちプロジェクトに参加させていただいたことで、地域と医師がつながりやすくなる土台を作っていきたいと考えるようにもなりました。

いとちプロジェクトの会議の様子

総合診療医を目指す若手医師で、かしま病院や福島県内の病院・診療所で研修をしたいと思う人が増えれば、福島の医療を盛り上げることはもちろん、このプロジェクトも魅力的な取り組みになってくるかと思いますので、積極的に活動していきたいと思います。

医療の勉強に加え、人とのつながりができること、自分なりに地域での暮らしを楽しんでいることが、永井先生が福島に関わり続けるひとつのきっかけになっているのではないかと感じました。

医療と地域の担い手が、永井先生のような若手医師が活躍できる場所や一緒に取り組みを行える機会をつくっていくことも、今後いとちで取り組んでいきたいテーマです。いとちプロジェクトでも、永井先生をはじめ、若手医師の活躍を発信していきますので、みなさんお楽しみに!

文章/いとちプロジェクト・前野


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