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レポート | 地域医療実習 | 現場に行くからこそ分かった、背景を知る大切さ
いとちプロジェクトは立ち上げから3年目を迎えました。当初は医学部生の参加がメインでしたが、最近では薬学部生やリハビリ職を目指している学生も参加してくれるようになり、その輪が広がっているように感じます。
昨年夏、8月20日と21日の2日間わたって行われたいとちツアーでは、新たに看護学部生が参加してくれました! やってきたのは、杏林大学の看護学部生4人と医学部生3人の合計7人です。
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医師よりも、患者さんとコミュニケーションをとる機会が多い看護師のみなさん。「患者さんに寄り添いたい」という思いを強くもつ看護学生が、いとちツアーでどのようなことを体験し、気づきを得たのかをレポートしていきたいと思います。
「病」は患者にとってほんの一部でしかない
1日目。実習の舞台は、かしま病院のそばにある「かしま荘」(特別養護老人ホーム)。ここでは、利用者さんへのインタビューを行いました。
到着するや否や、病院のスタッフから「それじゃあ、利用者さんたちと喋ってきてね!」と、詳しい説明がされないまま学生たちは利用者さんのもとへ送り出されます。普段の実習では、2週間という長い時間をかけてゆっくりと関係性を築いていくため、初対面の利用者さんといきなり話すスタイルに困惑している様子でした。
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おそるおそる利用者さんへのインタビューをはじめた学生たちですが、意外に盛り上がっています。学生のAさんにインタビューの感想を伺ってみました。
A:「入所後、どんな生活を送っているのですか?」と聞くと、施設での生活を家族がサポートしてくれているという返答が真っ先にかえってきました。ほかにも、実家のある福島市が大好きなことや最近の趣味などをお話ししてくださいました。次から次へと話がとまらなくて。
病気の話が一度も出てこないことに驚いたAさん。医師に利用者さんの既往歴を尋ねてみたところ、実は多くの疾患を抱えている方だったそうです。Aさんは、「病は患者さんにとって、ほんの一部でしかないことに気がつきました。病気を患っている人としてではなく、一人の人間として関わることの重要性を学びました」と語ってくれました。
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特定の部位や疾患に限定せず、患者本人の心理、社会的側面、人間関係などその人自身をまるごと診ることの大切さに気づいた学生たち。かしま病院の掲げる「全人的医療」を現場で学んだようです。
現場で想像する、そこにある暮らし
2日目。午前中はいわき市沿岸部のツアーに出かけました。いとちプロジェクトの講師であり、地域活動家の小松理虔さんがガイドとなり、沿岸の被災状況を学びながら、いわき震災伝承みらい館に向かいました。
一台の車が通り過ぎたとき、小松さんが「周りを走っている車の種類にもいわきの特徴が表れています。何かわかりますか?」と問いかけます。
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学生たちは周りを通る車を観察し、必死に答えを導き出そうとしましたがタイムアップ。答えはトラックが多く走っていること。いわき市はかつて石炭産業で栄えた地域であり、現在も火力発電の燃料として、大量の石炭が火力発電所に運ばれます。1日に何往復もするそうで、たしかに同じような形状のトラックが走っていました。また、化粧品の原料を製造する工場も、小名浜地区内にあるのだそうです。
小松:みんなの家はスイッチを押すと電気がつくよね。メイク用品もお店に売られている状態のものしか見たことがないと思う。でも、そういったものを作ることを生業にして、みんなの快適な暮らしを支えてくれている人がいることを忘れないでほしい。
小松さんの言葉に、ハッとした表情の学生たち。自分たちの日常が多くの人たちのおかげで成り立っていることを実感しているようでした。
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しばらくすると、車は岩間町に入っていき、大きな発電所の近くで止まりました。車から降りてみると、そこには共同墓地がありいくつものお墓が立っていました。「発電所のそばに、なぜお墓があるのだろう?」とふしぎな表情をしている学生たちに向かって、小松さんがその理由を語ります。
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小松:震災前、このあたりには多くの家があり人も住んでいました。このお墓は、そこで暮らす人たちが祖先を弔う共同墓地です。震災後、沿岸の地域は再建しない、この土地から離れて生活すると決め、住民が暮らしていた地域に新しい発電所が完成しました。お墓だけがこの場所に残ることになったんです。
小松さんのガイドを聞きながら、学生たちは今は見ることのできない、かつての風景を想像します。
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小松さんは、お墓や葬儀からも人々の暮らしぶりが読み取れるといいます。いわき市の多くの地区では仏式のお葬式が執り行われますが、旧泉藩だった地域ではでは神式が浸透しているそう。地域や信仰によって弔い方も異なり、亡くなった人への認識の仕方も変わってくるようです。
ちなみに、神道では、「亡くなった人は氏神となり、家を守ってくれる」という考え方があります。亡くなった人の魂は、遺体から離れて産士神(うぶすながみ)の森に帰っていくとされています。産士神とは、産まれた土地や現在居住している土地の守護神を指します。
どの程度そうした信仰が息づいているのかはわかりませんが、神道を信仰しているこの地区のみなさんにとって、亡くなった家族やご先祖さまは暮らしのそばで見守ってくれていると感じているのではないでしょうか。
震災によって、先祖代々受け継いできた土地を離れなければいけなくなった住民のみなさんのことを想像しました。
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ある学生からは、「授業で、患者さんがどんな宗教を信仰しているのかを知っておくといいと習いましたが、その意味をきちんと理解できていませんでした。今回、実際に自分の目で見て、いわきで暮らす小松さんにさまざまな話を教えてもらったことで、暮らしの中で宗教は切っても切れない存在で、心の拠り所だということを実感しました」と新たな気づきがあったようです。
実際に現場に出向き、いろんな話を見聞きしながら、その土地での暮らしを想像する。そうすることで、病棟で患者さんにかける言葉も変わってくるのではないでしょうか。
今回、初めていとちツアーに参加してくれた看護学生たち。「医療」的な内容よりも、「人」を多角的に捉える大切さを学んだという内容が多く書かれていました。いとちツアーで学んだ、患者さんの背景も含めて「人をまるごと診る」ことが、今後の実習や実践にいかしてもらえたらいいなと思います。