レポート | 医療を外して「その人」をみてみるインタビューワーク
いとちプロジェクトでは、かしま研修にやってくる学生たちのために、「いとちワーク」という学びのプログラムを提供しています。さまざまなプログラムがあるのですが、講師の思いつきで、ある日突然実施されるワークもあります。今日は、6月18日に突如! 初開催されたインタビューワークについて、いとちインターン生の小林歩記がレポートしていきます。
初の試み! インタビューワークとは何ぞや?
午後2時。参加者が全員集まり、いつものように、いとちワークの説明が始まりました。普段のワークでは、最初に参加者全員が、出身地や所属していた部活動などをキーワードに自己紹介をしていくのですが、この日は名前と所属している組織、今回の実習の意気込みだけでいいとのこと。
なんでいつもと違うんだろう…とざわざわとし始めたころ、いとちワークの講師を勤めている小松理虔さんから「今日はインタビューワークをやるから自己紹介はこのくらいでいいよ」と話が。いとちワーク、こんなふうに新しいプログラムが突然始まったりもします。
では、このインタビューワークとはどのようなものなのか。まず参加者が2人ずつペアを組み、10分ずつ交互に2回インタビューを行います。その後、ワークシートに、インタビューした相手の「その人らしさ」を表す「3つの要素」、「その理由」、「その人を短く言い表すキャッチコピー」などをイラストつきで書いていき、最終的にシートを見せ合いながら、「他己紹介」を行うというものです。
小松さんからは、好きなものやこれまでどんな人生を送ってきたのかに着目して話を広げよう、その人の苦手なことや辛かった思い出もその人らしさにつながっているかもしれないよ、というヒントも提供されましたが、インタビュー経験がほとんどない参加者たちには緊張感が…。そしてそのまま第1セクションがスタートしました。
まずは、出身地や趣味などの基本情報から話を引き出し、その後、時系列に沿って、過去・現在・未来の話を伺い、その人の核となるキーワードを手繰り寄せていきます。相手のことをほとんどなにも知らない状態なので、大まかな質問から始めるペアがほとんど。まずはおしゃべりをして、偶然相手の口からこぼれた話を拾い上げる。そんなイメージです。
初対面の相手と10分も話すということで気まずい雰囲気になることもあるかなと予想していたのですが、意外にも盛り上がっているペア、和やかな雰囲気で会話を交わしているペアがいて、話しやすい雰囲気が作り上げられていたように思います。
相手を表す要素がなんなのかを考えるのに頭を悩ませる緊張感もありますが、楽しみながら相手のことをさらに深ぼれるという高揚感も混じっている。そんな独特の雰囲気の中、インタビューは第2セクションへ。
第2セクションでは、第1セクションで手に入れた情報を基に「その人らしさ」を表す単語につながりそうなトピックを深堀したり、その人の核となるような部分に光を当てる具体的な質問に限定して聞いていくペアが多くいたように思います。最後のほうは、だいぶ打ち解けてきたのか、雰囲気づくりのための意識した笑顔ではなく、自然と生まれる笑顔が見られてきました。
個性突出の他己紹介
インタビューが終わると、ワークシートに「その人らしさ」を表す3つの要素とその理由、その人を短く言い表せるキャッチコピーをイラスト付きで書いていきます。ここに作者の“個性”が出るのです。
インタビューの形式や、意識して聞き出そうとしたポイントの違いだけでなく、知ることができた要素の中からどれを“その人らしい”と考えるのか。これらはすべて、その人次第です。
ワークシートが完成すると、いよいよ他己紹介タイムに入ります。ペアを組んだ相手以外の参加者の情報は何も知らない状態だったので、一同の関心が一気に発表者に集まります!
発表者は、自分の考えたキャッチコピー、その人を表す3つの要素、そして、そう書いた理由を述べていきます。相手の好きなものに着目する人もいれば、性格、人生観を「その人らしさ」と見なす人もいて表現はさまざま。
講師の小松さんからは、「人によってワークシートの書き方にも個性が出ていて、そこから作者がどんな人なのか、二人でどんな時間を過ごしたのかを想像できる」とコメントがありました。たしかに、ワークシートに限界まで情報を詰め込み、言葉をぎっしり埋めようとする完璧主義者もいれば、短くても温かい文章から、二人で過ごした時間がよいものであったことが分かる人もいる。人それぞれなんです。
インタビューワークの狙いとは
インタビューワーク終了後、小松さんから、ワークの狙いについて解説がありました。このインタビューは、もともと編集やライティングの仕事を目指している人たちのために行っているものだそうです。ですが、今回の参加者は医学を学ぶ学生たち。なぜ「ライター向け」の講座をしたのでしょう。
小松さんはこんな解説をしていました。
「このワークは、その人の暮らしぶりや好きなものといった日常的なところから、『その人らしさ』に迫っていくワークです。診察室の中で患者さんと会話をするなかでは出てこない話が出てきたと思います。でも、そうした情報こそ、“その人自身” を知ろうとする時に大事な要素になってくる。患者さんを全人的に診ることにもつながっているはずです」
医療を学ぶ医学生は、診察室に訪れる相手に対して「医学生」の立場で向き合うでしょうし、医療を学んでいるわけですから、当然、目の前の相手をなにかしらの病気の「患者」として捉えるはずです。つまり、目の前の人を、医療に関する情報に強くフォーカスしてインプットする、ということです。
一方、いとちワークは医療の外に出るワーク。医療以外のチャンネルを使って人と向き合います。「人と人」として出会うことができれば、見えてくる側面も違ったものになっていくかもしれないと思いました。
今回のワークを通して、医学生たちは、目の前の相手の生活背景、性格、好きなもの、考えていることといったその人を構成している医療以外の要素を実感できたのではないでしょうか。そしてその実感が、「医師と患者」という関係性だけではなく、「人と人」、「地域住民同士」といった関係を頭に入れたうえで人を捉えるきっかけになっているとよいなと思います。
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