見出し画像

詩 #1 女の子が死んじゃうまでの日記

女の子が死んじゃうまでの日記



わたしはしっている。
じぶんのおなかに
赤く腫れているところがある。
いつかそれがわるさをして、わたしは死んじゃうかもしれないし、
死なないかもしれない。

それが遠い夏かもしれないし、
すぐ明日かもしれない。言うまでもなくね。

12月10日 
ステーキとオレンジジュース
親子でもない女と女の子が
手をつないで、氷雨のなかを、
家にあるいている。
おなかはいっぱいだけど、手は冷たいし、
波の音は包丁のおとみたいに白々しい。
海は青くて黒い。女の子の手のひらは、きっと黄色い。

女は薫さん。女の子はわたし。言うまでもなくね。

12月11日
お味噌汁とご飯。さばの缶詰。菜っ葉を炒めて胡麻と塩で和えたフリカケ。
フリカケはきのう薫さんと一緒につくった。
おいしいけど、ちょっと物足りないから、ハサミで唐辛子を刻んで、瓶のなかのフリカケに、まぜる。
午後、調子がいいから
女の子はほんの30分だけがっこうにいく。

12月12日
病院で、時計の針の音をきく。
すきだった小説にそんなシーンがあったと
女の子はおもいだす
ニューヨークの、
整形外科
その主人公の名は、
なんだったっけ。
夜、てんぷら。薫さんと揚げてたべる。
よなか、ちっちゃいボタンみたいな血がでる。
女の子のからだは、
百円入れたらドロップが飛び出す販売機みたい。

もちろん女の子はわたしで、ドロップの代わりに血だけど。言うまでもなくね。

12月17日
女がレコードをかってきた。
女の子のベッドのよこでながした。
薫さんと
わたしはきいた。
ゆきみたいな雨がふっている。
きょうはいちにちベッドにいた。クリスマスのケンタッキーが、たのしみさ。

12月18日
女の子は病院のベッドにうつった。
窓の外で雪が降っていた。夜空の奥は海なので、くらかった。
女の子は泣いたよ。

12月19日
クリスマスの晩までには
部屋にもどろう
ケンタッキーの赤いバケツがたのしみ。女の子の好物はチキン。それに薫さんが買ってきたレコードも、まだ半分も聞いていないのさ。

12月20日
レモンのケーキと
おそば
おかしいな
おんなのこはとっても元気。
なんでもたべられるし、なんでもわかる!(そんな気がする)
薫さんはふとんを敷いて泊まっていくから、背中がいたそう。

12月21日

12月22日

12月23日
女の子は
二日間
家に戻っていいことになった。
寝転がったまま運ばれてね。
もちろん寝転がっているのはわたし。言うまでもなくね。

12月24日
メリイクリスマス! たのしいな。女の子がすんでいる国では、まるで24日がクリスマスの本番。おいしいご飯に、楽しいレコードに、お布団のよこのプレゼント。女の子は喜んで、獣みたいにはしゃいで、鶏肉の味がする赤いバケツをかぶって写真をとってもらったのさ。
もちろん女の子はわたし。写真を撮ったのは薫さん。言うまでもなくね。その晩女の子はまるで天使みたいで、普段は気がつかないことにも気がつくのさ。わたしの命はあしたまで。その晩女の子は、枕元で赤いドロップみたいな宝石をはきだしたよ。プレゼントではなく血。言うまでもなくね。

12月25日
お母さんじゃないけど、お姉ちゃんじゃないけど、短い人生だったけど、薫さんのこと、好きだなあ。もっと一緒に居たかったな。雪の降る朝、女の子は天国に行きながら思ったよ。女の子って、誰だっけ。きっとわたしじゃないよね、言うまでもなくね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?