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【TIFF日記】「存在するもの」

 2019年の東京国際映画祭(TIFF)5本目は、フィリピンのホラー映画。正直言うと、観るかどうかけっこう迷った作品なんだけど、個人的には大当たり! ホラー映画史に残る快作だと、オレは思います。

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 舞台は1985年のフィリピン。学校で寮生活を送る青年ルイスのところに、遠く離れた実家にいるはずの、双子の妹が訪ねてくる。ところがちょうどその時、「妹が死んだ」という電話がかかってきて、妹の姿は消えていた。ルイスは妹の葬儀のために、急いで実家へと戻るが……。

 実家へ帰ってきたルイスに、次々と降りかかる怪異。その中でルイスは自分の家族に隠されていた、さらにはこの建物に潜んでいた、恐ろしい秘密を知ることになる!

 以上の概略から分かるとおり、本作はある意味クラシックとも言える、かなり本格的な幽霊屋敷ホラー。ルイスが実家に到着した直後から、わりとインパクトのある怪異が矢継ぎ早に襲いかかり、「序盤からこんなに飛ばして大丈夫なの?」と思っていたら、後半に向けてちゃんと恐怖のボルテージが上がっていく! 

 とにかく、観客をビックリさせる要素がこれでもかというぐらい詰め込まれていて、しかもちゃんと怖いという、質・量ともに圧倒的。それでいて、「家族」のドラマとしても見応えのあるものになっているあたり、その手際の良さに感服するばかり。

 もちろん、すれっからしのオタクであるオレのような人間からすれば、『リング』『呪怨』をはじめ、『エクソシスト』や『シャイニング』、さらにはデ・パルマやアルジェントなど、古今東西のホラー映画のエッセンスを、この映画に見つけることができる。でも、それらを単に寄せ集めているというよりは、過去の名作を踏まえた上で、それをさらに乗り越えていく意志のようなものが感じられた。

 具体的な説明はネタバレのため避けるけど、この映画の中に、明らかに『エクソシスト』を元ネタにしている場面があって。ところが、そこにある種のアレンジを施すことで、ちゃんとこの物語にとって確かに意味のあるものになっている。そのあたりの作りの上手さは、自分自身で「メインストリーム(娯楽映画)の監督」と言い切るエリック・マッティ監督の職人技だろう。個人的には、サム・ライミ監督の『死霊のはらわた』1作目を初めて観た時のようなパワフルさを、この映画から感じている。

 また、具体的な言及は避けるが後半の展開には、フィリピンの社会や歴史が深く反映されている。そのこと自体は映画を観ている間も感じていたのだが、上映後のQ&Aでマッティ監督が、「1985年という時代設定は、マルコス政権が崩壊する前年。この映画はマルコス恐怖政治時代の空気が背景にある」と、自ら説明していた。

 それ自体は目からウロコだったのだけど、一方で1985年といえば、スプラッター映画のブームがピークだった時期でもあるわけで。本作のOPやEDのレトロなクレジットロゴを見ると、そうした過去のホラー映画に対するオマージュもあるのではないかと、ちょっとだけ思ったり。

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