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キャラゲーから生まれたオープンワールド【2020年6月フリーテーマ】

※今回は2020年6月用の記事だったのですが、締切に遅れて7月の公開となってしまったため、無料で最後まで読むことができます。スイマセン。

今では世界的に定着したオープンワールドのアクションアドベンチャーゲーム。オープンワールドと言えばなんといっても、このジャンルに大きなブレイクスルーをもたらした『Grand Theft Auto』が、今なおその頂点に君臨している。

とはいえ、その他のディベロッパーも、『GTA』の快進撃を黙って眺めていたわけではない。『GTA』の成功を真似てみたり、あるいは『GTA』にはない大胆で先進的なゲームシステムを導入したりと、さまざまな試みでこのジャンルの発展を支えてきた。

オープンワールドゲームの発展をプレイヤーの立場で見守ってきた筆者としては、そんな先人たちのアイデアとチャレンジの顛末を、自分の記憶を元に振り返ってみようと思う(といっても、海外ディベロッパーの詳細は資料に頼らざるを得ないので、英語版Wikipediaなどを参考にしている)。

今回は、オープンワールドにあるユニークなプレイスタイルを持ち込んだ、Radical Entertainmentというディベロッパーについて見てみよう。

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『ザ・シンプソンズ』と『GTA』を組み合わせたら!?

1991年にカナダのバンクーバーで設立されたRadical Entertainmentは、おもに家庭用ゲーム機に向けてゲームソフトを開発するディベロッパーとして活躍していた。1991年から2001年頃までに同社が手がけたゲームソフトのラインナップを見てみると、大きく2種類のソフトを得意としていたことが分かる。1つは『NHL Powerplay』といったアイスホッケーのゲーム。そしてもう1つは、映画やTVアニメのキャラクターゲームだ。

キャラクターゲームでは日本のアニメ『マッハGoGoGo(Speed Racer)』からコメディ映画の『Wayne's World』、SF映画の『Independence Day』に、ジャッキー・チェンが主人公の『Jackie Chan Stuntmaster』と、幅広いジャンルのタイトルが並んでいる。

ちなみに1990年代前半には、Radical Entertainmentは任天堂からライセンスを受けて、『Mario Is Missing! 』『Mario's Time Machine』というマリオやルイージが主役の学習ゲーム2本を制作している。

このように、キャラゲーを多く開発してきたRadical Entertainmentは、2001年にアメリカの人気TVアニメ『ザ・シンプソンズ』を題材としたゲームを制作する。『The Simpsons: Road Rage』だ。

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※パッケージ画像は駿河屋の商品ページから引用。

これがどんなゲームかというと、ホーマー・シンプソンをはじめとするアニメのキャラクターが自動車を運転して、街で乗客をピックアップして、制限時間内に目的地まで送り届けるというもの。……ぶっちゃけどこかで聞いたことのある「クレイジー」な内容だ。そのためセガに訴えられるというオチまでついている(この訴訟はどうやら示談で終わった模様)。

だが、『The Simpsons: Road Rage』はRadical Entertainmentに、新たなインスピレーションをもたらした。セガに怒られないようにするためには、車にずっと乗りっぱなしではなく、途中で車を降りてキャラクターが街を歩き回れるようにすればいい。そして街で乗客を拾うのではなく、車の運転に限らない多彩なミッションを街で受けるようにすればいい(※このあたりの描写はもちろん、筆者の勝手な空想だ。以下同)。こうして2003年に発売された『The Simpsons: Hit & Run』は、なぜか世界中でこう呼ばれるようになった。「ザ・シンプソンズ版『GTA』」と。

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※パッケージ画像は駿河屋の商品ページから引用。

『GTA』フォロワーの中でもかなり初期のタイトル(『GTA: バイスシティ』の発売1年後)である『The Simpsons: Hit & Run』は、オープンワールドのバラエティ豊かなゲームプレイを、殺伐とした世界観以外でも楽しめるゲームとして高く評価されて、海外では大ヒットしたようだ。それもあってか、この作品の発売後にRadicalは、本作の発売元だったヴィヴェンディ・ユニバーサルゲームズのグループ企業となっている。

『GTA』の元ネタ映画をオープンワールドゲームに!

ヴィヴェンディ・ユニバーサルの一員となったRadical Entertainmentは、同時期にヴィヴェンディが版権を獲得した人気IPのキャラゲーを制作することになる。それがあの『クラッシュ・バンディクー』だ。Radicalは『クラッシュ・バンディクー がっちゃんこワールド』以降、『Crash of the Titans』『Crash: Mind over Mutant』とクラッシュ・バンディクーのゲームを作り続けるが、そのほとんどが日本未発売である。……というか、この後に出てくるものも含めて、Radicalが開発したゲームの大半が、日本ではマトモに発売されていないことに今気づいたぞ(汗)。(『The Simpsons: Hit & Run』は、英語版ソフトをそのまま日本発売する初代Xbox後期のワーコレの1つ)

クラッシュ・バンディクーを作り続ける一方で、Radicalは『The Simpsons: Hit & Run』を成功に導いた方程式を考えていた。「版権キャラクターと『GTA』の組み合わせ」をファミリー向けアニメではなく、もっと『GTA』っぽい作品でやれたなら、それは『GTA』よりスゴイ作品になるんじゃないのか。たとえば『GTA』の元ネタになった映画とか!

こうして、EAの『ゴッドファーザー』に先駆けて2006年に発売されたのが、『GTA: バイスシティ』の元ネタの1つである映画『スカーフェイス』の版権ゲーム『Scarface: The World Is Yours』だ。

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映画版の権利元であるユニバーサルのグループ企業だからこそ実現できたこの企画は、主演のアル・パチーノ本人を引っ張り出したこともあり、『GTA』ライクなゲームの中でも特に印象的な快作となっている。なにしろ、原作映画のラストで派手に死亡した主人公トニー・モンタナがじつは生きていて、麻薬帝国の再建にいそしむという内容なのだ。この作品については、筆者は以前にもゲームライターマガジンで語っているので、そちらもご参考まで。

超人ハルクが開拓した「垂直」のオープンワールド

さて、Radical Entertainmentが『The Simpsons: Hit & Run』を制作した2003年に、同社はもう1本、別のゲームソフトを制作している。同年公開のアメコミ映画『ハルク』をゲーム化した『Hulk』だ。

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※パッケージ画像は駿河屋の商品ページから引用。

同作が好評だったのか、今度はコミックを元にしたオリジナルの続編を、Radicalが引き続き制作することになった。2005年に発売されたその作品、『The Incredible Hulk: Ultimate Destruction』には、前作にはない大きな特徴があった。「Unstoppable Movement」と呼ばれる移動システムだ。

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※パッケージ画像は駿河屋の商品ページから引用。

2003年版映画や『アベンジャーズ』を見れば分かるように、ハルクはその巨体にも関わらず、意外と動きが素早い。空を飛べない代わりに、空中高くジャンプして遠くへ移動することもできる。「Unstoppable Movement」は、こうしたハルクの動きを再現するために用意されたものだ。街の高層ビルの側面を、ハルクは地上と同様、自在に駆け上がることができる。さらにハルクがビルの上から地上に向けて飛び降りれば、ダメージを負うどころか逆に、地上の建物や車を破壊できる

オープンワールドが持つ平面の広がりに、「Unstoppable Movement」による垂直方向の移動と、なんでもつかんでぶん投げるというハルクの豪快な暴れっぷりが加わって、『The Incredible Hulk: Ultimate Destruction』はこの時期のゲームハードでは他にあまりない、痛快無比なアクションゲームとなった。

この数年後、Xbox 360/PS3の世代になると、『ライオットアクト』『インファマス』『Saints Row IV』といった、超人的能力で垂直方向に移動可能なオープンワールドアクションゲームがいくつも登場してくる。『The Incredible Hulk: Ultimate Destruction』は、そうしたゲーム性をPS2/初代Xbox世代ですでに先取りしていたのだ。

『Prototype』でRadicalが手にした血まみれの栄光

『The Incredible Hulk: Ultimate Destruction』がレビュー的にもセールス的にも好評を得て、Radicalの開発スタッフたちはおそらく自信を深めたことだろう。彼らはこれまでキャラゲーを作り続けてきたが、今度は既存のアメコミキャラを使うのではなく、自分たちのオリジナルIPとしてこのゲーム性をフルに発揮できたら……と考えたのは、想像に難くない。

2007年にヴィヴェンディ・ゲームズとアクティビジョンが合併し、Radicalもアクティビジョン・ブリザードの傘下となった後、ハードも世代交代した2009年に発売されたのが、あのオープンワールド殺戮ゲーム『Prototype』である! 

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※パッケージ画像は駿河屋の商品ページから引用。

ぶっちゃけると、『Prototype』が持つアクションゲームとしてのかなりの要素は、『The Incredible Hulk: Ultimate Destruction』から引き継がれたものだ。それ自体は海外では自明のことであり、続編の『Prototype 2』発売時には、米IGNがご丁寧にも2作を比較する動画をアップしている。これを見れば一目瞭然だが、思わず笑つてしまうほどそのまんまだ。

だがしかし。『Prototype』はただ一点において、版権ゲーである前作とは大きく異なる点があった。それは日本のゲーム業界をして一目で「ローカライズ不能」と唸らせた、血みどろっぷりだ。『Prototype』の主人公は遺伝子を改変するウイルスに感染したため、超人的な体力や変身能力を身につけており、腕を刃物や盾のように変形させて戦うことができる。それだけでなく、人間をグチャグチャにして自分の体内に吸収することで、相手の記憶を自分のものにできるのだ。

こんな主人公を操作するといったいどうなるか。ビルの壁を駆け上って空中を飛び回り、急降下したと思ったら通行人をバラバラに引き裂いたかと思うと、駆けつけた警官や兵士に車を投げつけて大爆発を引き起こす。こんな阿鼻叫喚の光景が、リアルに作り込まれたオープンワールドで展開されるのだ。前述したように日本国内では正式発売されていないにも関わらず、『Prototype』シリーズが一部の洋ゲーファンから熱狂的に支持されているのはこのためだ。これ以前もこれ以後も、こんなゲーム見たことねぇよ! 

たしかにこんなヤバい主人公は、既存の版権キャラクターではとても無理だろう。この『Prototype』と、2012年に発売された続編の『Prototype 2』によって、Radical Entertainmentはゲームの歴史にその名を刻みつけた。それが美名なのか、それとも悪名なのかまでは分からないが。

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▲2015年には『Prototype』の1作目と2作目をセットにしたリマスター版が、Xbox OneとPS4で発売されている(※画像は駿河屋の商品ページから引用)。

こうして自社のオリジナルIPを持つに至ったRadicalだが、既存のゲームに合わせてホイホイとディベロッパーを入れ替えるアクティビジョンとは、どうやら相性が悪かったようだ。英語版Wikipediaによると、ヴィヴェンディ時代に開発を開始して、完成寸前まで進んでいた『Scarface 2』は、アクティビジョンと合併後に中止になったという。またRadicalは『Prototype』を制作した後に、映画『スパイダーマン4』のゲーム版を開発していたが、映画が政策中止になったためゲーム化も流れてしまい、そのアセットが『Prototype 2』に流用されたとも伝えられているが、その真偽を確認することは筆者には難しい。

ただ分かっているのは、2012年に発売した『Prototype 2』のセールスが今ひとつに終わると、Radical Entertainmentの開発スタッフはその大半がリストラされてしまったということだ。2020年現在、アクティビジョンのHPを見ると会社そのものは今も存続しているようだが、Radicalの公式Twitterアカウントは2012年で更新が止まっている。(了)

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