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【TIFF日記】「ミンダナオ」

2019年の東京国際映画祭(TIFF)3本目はブリランテ・メンドーサ監督のフィリピン映画『ミンダナオ』。

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 メンドーサ監督は、この夏に有楽町スバル座で『アルファ、殺しの権利』を観て衝撃を受けたのと、その会場で本を買ったらなぜかメンドーサ監督から直筆のサインを頂くというご縁もあって(笑)、最近気になっている監督で。

 メンドーサ監督といえば、麻薬戦争をはじめとするフィリピンの社会問題を真正面から採り上げて、ドキュメンタリータッチのハードな絵作りで描き出すのが持ち味。ところがこの『ミンダナオ』は、予告編を見るとこれまでの作風とはやや異なるテイストになっているようにも見える。

 フィリピンはスペインやアメリカの統治下にあった関係で、住民の大半がカトリックだが、ミンダナオ島はスペインの征服以前からイスラム教が根付いており、数百年に渡る分離独立運動が今なお続いている。これが(映画を観た後に慌てて調べた)物語の背景。

 本作では、小児ガンを患ったイスラムの少女とその母親が「希望の家」で闘病生活を送る姿と、その父親でフィリピン国軍に所属する兵士が、イスラム武装勢力と戦闘を繰り広げる様子が、並行して描かれている。

 だがこの映画には、さらにもう1つの要素が加わっている。母親は少女に、ミンダナオ島に伝わる民話を語り聞かせている。それは島を襲った邪悪なドラゴンが、イスラムの2人の王子によって退治される物語だ。この民話の物語が、少女のクレヨン画を模したCGアニメーションの形で、親子3人の話にオーバーラップされていく。平原に散開する兵士たちの上を、クレヨン画のドラゴンが舞う光景は、なかなかシュールだ。この点だけを見れば、たしかにこれまでのメンドーサ監督の作風とは異なる「新境地」とも言えるだろう。

 だが、「希望の家」での闘病生活や、国軍の掃討作戦といった描写は、メンドーサ監督らしい実景ロケを駆使した演出となっており、非常に緊迫感がある。ややトーンの異なる演出が加わっているだけで、メンドーサ監督本来の持ち味は、本作でも存分に発揮されているのだ。

 なにより驚いたのは、3つの異なる物語が並行するという複雑な構成が、キチンと機能している点だ。正直言って途中までは、CGのオーバーラップはあまり効果的ではないし、闘病生活の描写もやや冗長だと思っていた。ところが後半からラストにかけて、そうした要素がどんどんと連携していき、重さはあるがちゃんと納得感のある結末へと到達する。そこから振り返ってみれば、映画に無駄な要素は何ひとつない。

メンドーサ監督は国内外で、そのセンセーショナルな題材がまず話題になる。しかし本作を観ると、なによりもストーリーテラーとして抜群に上手いということがわかる。闘病や民族紛争といった重いテーマを扱っても、感情を動かす場面や戦闘シーンで観客の興味をつなぎとめるしたたかさを持ちあわせているのだ。

 ただ、戦闘描写が完全にフィリピン国軍からの視点のみで、武装勢力側を伝説のドラゴンという非人間的な存在に例えるのは、さすがに疑問に思う。この点は上映後のQ&Aでもさっそくツッコまれていて、メンドーサ監督は「国軍の協力を得て撮影を行うためには仕方ない」と弁解していたが……。以前からドゥテルテ大統領寄りだと言われている人物だからねぇ。

 そういう点は留意するにしても、観た後に確かなものが残る、充実した作品だと思います。


 以下は完全に余談。

 戒厳令下のミンダナオ島で、軍に拘束される市民をバスの中から見るカットになんだか見覚えがあると思ったら、ユービーアイソフトの『ファークライ4』だった(笑)。ほかにも、現実とクレヨン画の伝説がオーバーラップする感じとか、本作のテイストはすごくユービーアイソフトのゲームっぽいんだよね。オレが本作を気に入っているのは、そういうところなのかもしれない。

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