【TIFF日記】「リリア・カンタペイ、神出鬼没」
今年も東京国際映画祭(TIFF)が開催されている。
今回試しに、TIFFで観た映画について、noteに感想を書き残すことにした。というのも、2018年のTIFFで観た『BNK48: Girls Don't Cry』や『リスペクト』はとても素晴らしい作品だったのに、1年経っても一般上映どころか日本で再見できる機会すらなくて。ならばせめて、当日会場で観た人間が感想だけでも書き残しておくのは、ある種の義務なのではないかと考えたからだ。
そんなわけで、あくまで個人的好みで選んで観た作品について、個人的な感想をゴチャゴチャ言ってるだけですが、もしよろしければお付き合いください。
2019年の1本目は、フィリピン映画『リリア・カンタペイ、神出鬼没』。TIFFの中でもパンチの効いたラインナップで個人的に信頼している上映部門「CROSS CUT ASIA」の1本。
主人公のリリア・カンタペイ(劇中での発音は「クンタパイ」がより近い)は、フィリピンのホラー映画で魔女や幽霊の役を演じてきた、実在の女優さん。日本で言えば例えが古いけど、新東宝の五月藤江みたいな感じだろうか。この映画は、そんな彼女が突然、助演女優賞にノミネートされたことで巻き起こる悲喜こもごもを、モキュメンタリーとして描いている。
モキュメンタリーは虚実の入り混じった感覚が醍醐味だけど、自分は不勉強ながらフィリピンの芸能界について詳しくないので、スターらしき人が出てきてもピンとこない(クレジットを見ると、クリス・アキノとかが出てたらしいけど気づかなかった)。おかげで、どこまでが虚でどこまでが実なのかを探り探りに観るという、これはこれで新鮮な映画体験ではありました。
上映後のQ&Aで監督が「セリフの95パーセントは台本通り」と語っていたけれど、少なくともリリアのキャリア的な部分に関しては、本人の実人生に負っている部分が多そう。劇中に引用されている出演ホラー映画も実在するようだし。……だとすると、相当にインパクトのあるキャラの女優さんであることは間違いない。
本作で描かれるのは、スターとはまるで扱いの異なる端役、それもホラー映画の怪女優というポジションである人物の日常だ。そこにはフィリピン特有の社会や業界の事情も垣間見えるものの、登場するエピソードはどれも、日本にも通じる普遍的なもので。さらに言うと、僕らの大半がリリアのように、誰にも名前が知られることのない仕事に対して、自分の誇りをかけて黙々と働いているわけで。
この映画は、そんな無名の職人に対してモキュメンタリーという形で光を当てる、優しいご褒美だ。リリアについて聞かれたフィリピンのスターたちは「そんな名前は記憶にない」と首を傾げるが、それに続いて笑顔で答える。「でも、あの映画の魔女の婆さんなら、もちろん覚えてるよ」と。本当に優しくて温かい、いい映画だと思う。
ちなみにこの映画は制作年度が2011年とやや古く、それもあってかケビン・ベーコン指数(本作の原題に注目)のネタが大々的に使われているのが印象的。
監督によると、現実のリリアは3年前に亡くなったそうだが、この映画の後、別の映画で本当に主演女優賞を獲得したとのこと(※この映画で受賞したのかと思ったら、どうやら違うようなので修正しました)。なによりのハッピーエンドだと思います。
自分が観た回の上映後には、今回の「CROSSCUT ASIA」で作品が上映される女性監督によるシンポジウムも開催されていた。メンバーは『リリア・カンタペイ』のアントワネット・ハダオネ監督、『それぞれの記憶』のシーグリッド・アーンドレアP・ベルナード監督のフィリピン勢2人に、ラオスから『永遠の散歩』のマティー・ドー監督という3名。マティー・ドー監督はフィリピンにも頻繁に出かけているらしく、ワチャワチャと仲良く盛り上がっていて、会話を聞いていても楽しかった。
詳細はいずれ公式あたりで公開されるだろうけど、印象に残った話題をいくつか。
フィリピンでは今、ラブコメ映画が全盛で、その大半を女性監督が演出しているそうで、おかげで女性監督の地位はかなり高いのだとか。特にハダオネ監督は今、ラブコメ映画のヒットメーカーになっているそうで、「マネー・イズ・パワー」とズバリ。
一方、マティー・ドー監督はラオスで唯一の女性監督だそうだけど、「ラオス映画の25パーセントを担っている」と語っていた。これを額面通りに解釈すると、ラオスには映画監督が4人しかいないことになるけど、それはどうなんだろう?
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