台北のホテルのバスタブで
ちょっと気分転換に、と台湾の台北に二泊三日で旅行したことがあった。
ベトナムは旧暦の正月を”お正月”としているのでこの時期に2週間くらいの仕事の休みを取れる。
その年は実家ではなく友達に会いに少しだけ東京に行こうと思っていて、その予定に合わせて台湾に数日泊まることにした。
それは2月で、台北はホーチミンから来た人間にとってはすごくすごく寒かった。気温は10度から15度くらいだったと思う。
私は台北のホテルのバスタブで温かいお湯に浸かりながら、ストレス、もの悲しさ、人恋しさと切なさを一度に感じていた。
仕事は休みの予定だったのに、プロジェクトで大きな問題が起こってクライアントとミーティングをしたり問題の解決方法を考えなければならなかった。
台北に来たのにホテルに缶詰めで、近くにあったファミリーマートでいなり寿司(大好きだからちょっと気分が上がった)とかカップスープを食べながらいつ終わるかわからない仕事をしていた。しょうがないと自分に言い聞かせつつ、ストレスを感じていた。
泊まったホテルのロケーションはまあまあ街中だったと思うけれど、台湾も旧暦の正月だったから(そのことを来る前に全然思いつかなかった)年末で人はあまり外に出ていないし閉まっているお店が多かった。
ホーチミンでいつどんな時も、たくさんの人たちで溢れている街に慣れている私は、ホテルから窓の外を見てもの悲しい気持ちになった。
それからその頃私は好きな人と同棲を始めたばかりで、恋愛に浮かれていたのでその人と離れて一人で寒いところにいることで人恋しさを感じていた。
バスタブで温かいお湯に浸かってると、心がしんと静まってそれらすべての感情をはっきりと認識できた。
ホーチミンにいるといつも暑くて天気が良くて、どんなことが起こってもカラッと晴れてる外に出ると切なさとかもの悲しさとかそういう繊細な心の動きがあまり起こらない。気持ちがすぐに晴れてしまう。
だから台北のバスタブで経験したあの感情は私にとって貴重で、その時は状況を打開することだけに集中していたけれど、今となってはいいものとして色濃く記憶に残っている。