「地球沸騰化」 気候変動による死者数の増加とその多様な影響 北極周辺では資源争いが
今夏も世界各地で記録的な熱波が発生し、深刻な影響を及ぼしている。
メキシコ南東部のペッパーソース州では、記録的な熱波により絶滅危惧種のホエザルが大量に死亡した。気温が47度に達する中、少なくとも157匹のホエザルが脱水症状により木から落ちて死亡したと報告されている。
生物学者によると、サルたちは重度の脱水症状で「リンゴのように木から落ち」、数分で死んでいったとのことである(1)。
また、サウジアラビアのメッカで行われた年に一度の大巡礼「ハッジ」では、50度を超える猛暑の中、1301人の巡礼者が熱中症などにより亡くなったと報告されている(2)。
インドでは、首都で52.9度という記録的な暑さが観測され、この異常気象が総選挙の投票率の低下にも影響を与えた(3)。
このような世界的な熱波の増加は、日本にとっても他人事ではない。日本の年平均気温は、長期的には100年あたり1.28℃の割合で上昇している。
21世紀末には、多くの地域で猛暑日や熱帯夜の日数が増加し、冬日の日数が減少すると予測されている(4)。
気候変動の影響を正しく認識し、適切な対策を講じることが急務である。個人レベルでの熱中症対策に加え、社会全体での温室効果ガス削減や環境保護の取り組みがこれまで以上に重要となっている。
関連記事→
Amazon(PR)→
地球沸騰化
近年、「地球沸騰化」という新しい言葉が、急激な気温上昇と異常気象の深刻化を表現するために使われるようになった。
この表現は、2023年7月27日に国連のアントニオ・グテーレス事務総長が記者会見で初めて使用し、広く注目を集めた(5)。「地球温暖化」よりもさらに深刻な状況を示す言葉であり、地球環境が沸点に達しつつあるという警告を意味している。
地球沸騰化がもたらす影響は多岐にわたり、気温上昇だけでなく、熱波、豪雨、ハリケーン、台風、干ばつなどの極端な気象現象が頻発している。
また、海面上昇や氷河・氷床の融解が加速し、沿岸部の浸水被害も深刻化している。さらに、生態系にも大きな影響があり、気温の急上昇により、多くの生物種が絶滅の危機にさらされている。
気温上昇や降水量の変化は農作物にも影響を与え、収穫量や品質が低下する可能性がある。その結果、食料供給への影響だけでなく、熱中症のリスク増加や、感染症を媒介する生物の分布域拡大といった健康リスクも懸念されている。
さらに、熱波や洪水、干ばつ、森林火災などの自然災害が頻発し、規模も増大していることから、地球沸騰化の影響は今後ますます深刻化する可能性がある(6)。このような状況に対して、国際社会全体での対応が急務である。
多岐に渡る「気候変動関連死」
地球温暖化とともに懸念されるのが、「気候変動関連死」のリスクだ。
世界保健機関(WHO)は、熱中症などの暑さによる死亡、マラリア、デング熱、下痢、栄養失調の5つの要因により、2030年から2050年の間に毎年25万人が気候変動関連死のリスクにさらされると予測している。
さらに、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2022年に発表した報告書では、気候変動が健康に与えるリスクとして、暑さによる死亡、循環器疾患、呼吸器疾患、糖尿病、マラリア、デング熱、精神的健康への影響、下痢、栄養失調など、幅広い影響を指摘している。
気候変動関連死とは、気候変動が直接的または間接的に引き起こすさまざまな健康リスクによって生じる死亡を指す。
これらのリスクは、気温上昇、異常気象、生態系の変化、水質の悪化、食料不安など、気候変動がもたらす環境変化によって引き起こされる。
これらの多様な健康リスクに対応するためには、温室効果ガスの排出削減や再生可能エネルギーの導入といった気候変動の緩和策に加え、健康システムの強化や脆弱(ぜいじゃく)な集団への支援など、適応策の実施が極めて重要である。
北極周辺で起きている資源争い
北極圏は地球温暖化の影響を最も受けやすい地域の一つであり、現在も気候変動によるさまざまな変化が進行中だ。これらの変化は、北極圏の環境や生態系に大きな影響を与える一方で、新たな経済的機会も生み出している。
最新の研究では、北極圏の温暖化速度は世界平均の4倍に達しており、特に北極圏の中心に近い地域ではその影響が顕著だ。
海氷の急速な減少、永久凍土の融解、ホッキョクグマなどの生息地の変化といった深刻な生態系の破壊が進んでいる(7)。
こうした変化は、北極圏に限らず、地球全体の気候システムに広範な影響を及ぼす可能性がある。
その一方で、海氷の減少は石油・天然ガス・鉱物資源の開発や北極海航路の利用といった新たな可能性をもたらす。
さらに、世界の未発見天然ガスの約30%、石油の約13%が北極圏に存在するとされ、各国が資源獲得に向けて動き出している(8)。
しかしながら、これらの動きは、北極圏の環境保護と経済開発のバランスという重要な課題を浮き彫りにしている。
北極圏における変化は、環境保護と経済発展のジレンマ、そして国際協調と各国の国益追求とのバランスを取る難題を提起している。地球規模の視点から北極圏の未来を慎重に考えることが、今こそ求められている。
(1) Kenji P. Miyajima「脱水症状のホエザルが木から落ちて大量死。原因は“熱波”」GIZMOOD、2024年5月29日、https://www.gizmodo.jp/2024/05/howler-monkey-mass-death.html
(2) NHK NEWS WEB「サウジアラビア メッカ巡礼者1300人超死亡 気温50度超える猛暑」2024年6月24日、https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240624/k10014490171000.html
(3) 川上珠実「インド首都で52.9度観測 記録的暑さで総選挙の投票率低下も」毎日新聞、2024年5月30日、https://mainichi.jp/articles/20240530/k00/00m/030/239000c
(4) デコ活「地球温暖化の影響予測(日本)https://www.jccca.org/global-warming/knowleadge03
(5) ASUENE MEDIA「地球沸騰化とは?その意味と企業が取り組むべき課題を解説」2023年12月5日、https://earthene.com/media/1422
(6)PID「地球沸騰化とは?その意味や世界に与えている影響、対策、私たちにできること」https://pid-corp.jp/column/sdgs_1003/
(7) 藤井明子「北極圏の環境変化と経済活動の展望」三井物産戦略研究所、https://www.mitsui.com/mgssi/ja/report/detail/__icsFiles/afieldfile/2020/04/14/2004d_fujii.pdf
(8) DIAMOND online「ロシア、米国、中国…大国が利権を狙う「北極争奪戦」の行方は?」2021年12月11日、https://diamond.jp/articles/-/289416
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?