世界を描くこと。”VA-11 Hall-A”名作分析第三回

2022年10月29日 23:38

名作分析とは？

主に一つの作品をピックアップして、その作品の何が評価されているのか
について分析、解説するコーナーです。
筆者がゲームを主に取り扱っているので、ゲーム中心の話になります。
できるだけタイムリーな作品を取り上げたいと思っています。

今回は、個人的に冬になると遊びたくなる"VA-11 Hall-A"を取り上げます。

本稿を読む前に、

VA-11 Hall-Aではゲーム中に、グラス片手に、ゆったりと遊ぶことを強くおすすめされます。
本稿もゆったりとした気分で読んでいただけると幸いです。
折角なので、VA-11 Hall-Aの作中のジュークボックスから流れる音楽を聴きながら読んでみませんか？

VA-11 Hall-A 高評価のポイント

・世界を表現した

VA-11 Hall-A とは？

VA-11 Hall-A (ヴァルハラ)
ベネズエラのインディゲームスタジオ"Sukeban Games"によって開発されたサイバーパンクバーテンダーテキストアドベンチャーゲーム。
主人公ジルは”VA-11 Hall-A”と呼ばれるバーのバーテンダー。
”VA-11 Hall-A”に訪れる一癖も二癖もあるお客さんにカクテル🍸を提供するのが仕事。
お客さんに提供するカクテルによって物語が分岐するのが本作の特徴。

世界を表現した

創作物には必ず”世界観”が存在している。
多くの創作物では、その世界観に基づいた物語が展開され、その物語を表現の対象としている。

VA-11 Hall-Aにも”世界観”は存在している。
でも、VA-11 Hall-Aはその中で展開される物語ではなく、その世界そのものを表現している作品だ。
主人公が世界を破滅の危機から救ったりなんかしないし、そもそも主人公が何か目的があってバーテンダーをしているわけでもない。

補足世界観って何？

世界観とは実に定義が曖昧な言葉だ。

なんかよくわからないけどゲーム性以外の何かが良いゲームに対して、世界観が良いなどと批評してあるのを見ると、「このレビュアーさんはゲームへの理解から逃げてるな」と感じることが結構ある。
(逆に、安直に世界観という言葉を使わないレビュアーさんは信用できる。)

折角なので世界観を定義しておこう。

世界観とは、世界設定のことである。

例えば、
”前作の世界設定を受け継いでいる新作”は、
”前作と世界観を同じくする新作”
と言い換えることができる。

以上を踏まえた上で本稿を読んでいただけるとより理解が深まるかと思う。

ゲームをする動機づけ

VA-11 Hall-A以外のテキストアドベンチャー系のゲームにおいて、ゲームを進める動機の多くは先の気になる物語であろう。
この二人の関係はこの先どうなっちゃうの～！とか、
この事件の真相はいかに！とか。
そういった物語面からゲームを面白くしているものが大半である。

しかし、VA-11 Hall-Aにおけるゲームを進める動機は、世界観、つまり世界設定である。
VA-11 Hall-Aは世界を理解していくことが面白さの中心に据えられているのだ。

世界を理解することの面白さ

例えば、ニュースを読むとき。
そのニュースの背景にある出来事を理解しているか、そうでないかでそのニュースを面白いと感じるかどうかは変わってくる。
ニュースの背景は、他のニュースから理解したり、あるいは世間話などから理解することができる。

このニュースの背景を理解するということは、その世界を理解することと同義といえるだろう。

世界を理解することで、その世界で起きている事象に対する面白さは指数関数的に増加していく。

VA-11 Hall-Aの世界を理解する

VA-11 Hall-Aの世界を理解する方法は、
・出勤前にネットニュースや掲示板を見る。
・バーで接客中にお客さんの話を聞く。
の二つです。

ネットニュースに書いてあったけどよくわからなかった言葉の意味を
お客さんの話で知った上で、もう一度そのニュースを読み返すと、
そのニュースの意味が分かるようになる。
ああ、面白い。

そして、VA-11 Hall-Aの面白い点は、そういったニュースが直接的に主人公に関わらないことだと思う。