【押し売りみたいな熱意だけだね】
チャンスは程なくしてやって来た。
中学2年生の頃である。
カナダ・バンクーバーへの海外派遣生募集。
これに飛びつかない訳がない。
私は学校から配布されたチラシをかばんに詰めると、走って帰った。
∇∇∇
私の生まれ育った市は、バンクーバーと姉妹都市であった。
近所の一軒家、あのバーベキューパーティーをしていた家だが、そこに住んでいたALTの人達もバンクーバーから3年ごとに派遣されて来ていた訳である。
私は、名前だけは聞いたことのあるカナダの都市に思いを馳せた。
チラシに書かれている予定表には、バンクーバーでのホームステイや学校訪問に加え、アメリカはサンフランシスコでの日程も書かれてあった。
私の頭は興奮で爆発しそうだった。
もう新たな扉はすぐ目の前にあって、なんならもう半開きで向こうの光が漏れていて、私が飛び込んでくるのを待っているかのようだった。
∇∇∇
チラシをどう渡して、何をどう話したのか覚えていない。
両親が揃っていたのか、先に母に話したのかも覚えていない。
とにかく、14歳の少女が全身で懇願と説得を試みたことだけは容易に想像できる。
気づくと私は、書類審査に通り、選考面接を受けようとしていた。
∇∇∇
海の向こうばかりを夢見ていた。
なぜ自分はこんなたかが知れてる町に生まれたんだろうか、こんな何もない所なんて早く出て行きたい、外には私の知らない素晴らしい世界があるのに、早く出て行きたい、こんなところ、早く、と思っていた。
何も出来ない、何も知らない子供は、夢だけどんどん膨らんで、空高くまで舞い上がって、足元を見ていなかった。
それを繋ぎ留めたのが、担任の先生の言葉だった。
『ただ異国を吸収してくるだけではしょうがない、あなたは何を向こうの人に伝えるんですか?
あなたの国のこと、町のこと、質問されたらちゃんと答えられますか?』
押し売りのような熱意だけ。それって恥ずかしくないですか?と言われた気がして、私は空に舞い上がるのをやめた。
ストンと地上に降り立つと、私は図書館で調べものに励んだ。
そこには、たかが知れてると小馬鹿にしていたこの町の壮大な歴史が書かれてあった。
ぇえ…! 最後まで読んでくれたんですか! あれまぁ! ありがとうございます!