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湖嶋いてら
2022年2月6日 23:51
一歩林に入ると、むっと秋に襲われる。湿った落ち葉の安らかな匂いに混じる籠もった匂いはキノコだ。売れ残ったサツマイモが後ろでごろごろと鳴っている。滑り込んできた匂いはあっという間に体内に充満して、母の姿を映し出した。彼女が逝ったあの秋が両手を広げて僕を迎える。寝たきりの母だった。布団と一体化して薄い母だった。さらに薄い唇から儚い恨みを垂れ流しては、日に幾度も紫色の顔を歪ませ咳き込んだ。その体は薄い