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いてら堂 小説の棚

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湖嶋いてらの感覚や妄想から成る小説が並んでいます。
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2021年6月の記事一覧

ミズキ #書き手のための変奏曲

ミズキ #書き手のための変奏曲

 小柄で華奢だが曲線的な女だった。黒髪は柔らかく肩に乗っていて、その黒の深みの奥から香り立つものがあった。伏し目がちでその瞼は薄く透き通るような白だった。

「おつかれーっす。売上げお願いしまーす」

 もう三十になる癖に、こんな頭の悪そうな喋り方しか出来ないなんて我ながら情けない。将来の夢は社長になることです!と発表していた小学生の俺が見たら思い切り失望するだろう。何が社長だ、パチンコ屋でアルバ

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蛍売り

蛍売り

「いい色してるねぇ、これまた」
くぅ、とのけ反ったその人の頬骨を、お天道様が照らしている。
僕は、ふ、と笑った。

「これとこれとこれな。来週来るか?トマトがいいな。でっけぇやつな」
手渡されたざるに茄子、人参、胡瓜を入れながら、あ、はい来ます、と答える。
来週ならトマトもいい頃合いだ。

夏の日差しか、おっさんの掌か、小さく頭を下げながら掴んだ小銭はぬくかった。
「今年は猛暑だな。おめぇもそんな

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