キュンときた。


「今日もバイトかー」と春休みのためにとシフトを詰め込みすぎたことを少し後悔しながらいつもの出勤路を歩く。

流れる曲は世の中への不満とそれでも生きる私に応援歌を歌ってた。


***

たった4時間が中々過ぎていってくれないこのバイト。最近はお客さんの人間観察に明け暮れてる。

シフトは人員不足で最低限の人数で回してるから中々人と話す機会がないのだ。たまに挨拶するくらいで。まあ今日もいつも通り、そつなくこなしていたらやっとのことで4時間が過ぎた(過ぎようとしていた)。
そして閉店1時間前の20:00に退勤しようとするタイミングで交代する後輩くんと挨拶を交わす。何故か知らないがこの日お客さんが少なかったからか彼はいつも19:58くらいに私の元に来るのに、19:55分くらいにきた。
挨拶を交わしたは良いものの会話に困り、私は近くにあったシフト表を指して後輩くんに「下の名前はなんて読むの?」と聞いた。実際、珍しい漢字で読めなかったので気になっていた。
すると引き出しからものを取るためにしゃがんでいた後輩くんは、その手を止めて「そらって読みます」と真っ直ぐな瞳で私の目を見て言った。その後に「いいでしょ~!」と無邪気な笑顔を添えて。


私は油断してた。完全に。
後輩くんの笑顔を見た瞬間に脳内が停止し、「へぇそうなんだ~」としか言えなかった。
そのタイミングでお客さんが来たので足早にその場を去った。


***

更衣室に入る、着替える、イヤホンつける、外に出る。

脳内は後輩くんの笑顔が脳内リピート再生されていた。不意打ちすぎた。2つしか変わらないのにあの笑顔の威力はなんだ!うん、ほんとにかわいいいいい!!
そうして、何度か繰り返したのちにやっと、名前が「そら」だと認識する方向に思考が流れた。ただ時すでに遅し。脳内お花畑の私は後輩くんの「いいでしょ~!」という言葉と笑顔に対して「本当にいい名前だよ!!!最高だよ!」と答えていた。笑ってくれ。


***


電車を降りて、残りのシフト表を見て彼とあと1回しか会えないことを少し残念に思いながらいつもの帰宅路を歩く。


流れる曲は、世の中案外捨てたもんじゃないと突然の恋の始まりを歌っていた。



あの笑顔はずるい!!!








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百
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