耐えるということ
『人生は解決すべき問題ではなく、味わうべき神秘なのだ。』キルケゴール
みんな、試行錯誤しながら生きているのだと思う。それは、先が見えなくて、答えがわからない問題に取り組み続けるということ。いままでのやり方が通用しない場所に、繰り返し身を投じるということ。
自分自身が納得していないまま、安易な解決策に飛びついてはいけない。不安だからといって、何も考えずに周囲と同じ行動をとらないこと。別に、ずっと悩み続けていてもいいんだから。
『第三の道というのは、抵抗もせず、受け入れもせずってことなんですが、つまり、それは研究するってことです。
どっちにも行けないジレンマを感じている人は、どちらかの道を選んでもいいのですが、それで苦しくなっている場合は、選ぶという方法じゃないということを、体が教えてくれているのではないかと私はいつも考えます。研究開始のタイミングってことです。
そして、研究すれば、自ずと第三の道が発生します。矛盾を解決することばかり人は求めているようですが、そっちの方がおかしいんです。』
坂口恭平
ストレスを感じると、それに対処しようと人は自然と考える。テレビを見ていても、生きづらさを抱えてきたであろう人ほど、的を射たコメントをする。
僕は、就職をせず将来が不安だった22歳のとき、救いを求めるように必死で本を読んだ。西村佳哲さんが多様な職種のひとにインタビューをした「自分の仕事をつくる」「自分をいかして生きる」「みんな、どんなふうに働いて生きてゆくの?」
『彼も矛盾を抱えていたんだと思います。問題を抱えていたんだと。
でも、それがその人の特徴となりうるのです。研究をすればすぐに、その問題だと思っていたものが、抱えていた矛盾がそのまま素直にあなたの特徴になるんです。』坂口恭平
以前、書店で全く知らないエリック・ホッファーという哲学者の本を買った。表紙に書いてあった「在野研究者」という言葉に惹かれたのだと思う。安心快適な、研究室という守られた空間ではなく、外に出て野良犬のように生きること。
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いま僕は、建設業における末端の、現場作業員の仕事をしている。いっしょに働く人達は、やさしい人が多いけれど、いわゆるインテリなひとはいない。先日の米大統領選では、ほとんどがトランプ支持だったし。だから、例えばどこかのNPOに勤めて、思想的に似たような人たちと働いたほうがラクなのかなと考えたりもした。
でも、心地よい空間にいては、自分は成長しないのではないかとも思った。考え方を同じくする人達といっしょに、自○党のCMに中指を立てることはできるが、異なる意見がぶつかることは少ない。
自らと異なる価値観の人たちのなかで、ストレスを感じながらも共生すること。それが、考えることを促してくれる。
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例えば、ひとりの人間にはいくつもの側面がある。トランプ支持のひとも、すごく思いやりがあったりする。だから、ひとつの側面だけを見て、その人のすべてを否定することはできない。
また、ある価値観・考え方が形づくられるのは、個人の作業ではない。周辺環境に大いに影響される。
例えば、トランプ支持のひとは、なんとなくインテリを敬遠してしまうのかもしれない。それは、子どもの頃に勉強で怒られたことが原因かもしれない。
例えば、テレビからしか情報を得ないひとは情報弱者と呼ばれる。でも多くの中高齢者にとって、スマホやSNSはカジュアルなものではない。若い頃からそれらに触れてきた私たちとは条件が異なる。
だから、なんでも自己責任に落とし込むのは間違っている。自分と他者とでは、生まれた時代が違う、育ってきた環境が異なる。自分の基準は自分だけの基準にしか過ぎない。
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このような考え方ができるようになったのは、僕にとっては成長で、いままでより少し寛容になれたと感じた。
『手話を劣った言語として一方的に見なし、剥奪した者がいた。異なる言語を受け入れる余裕のない社会があった。
それらが、ぼくから、ことばと、記憶、そして感情を奪った。
引き裂かれる心情をかろうじてつなぎとめたものは、きれいな発音でもなく、勉強ができることでもない。
一人の者が、また目の前の一人に、コツコツとみずからを与えたという実証だ。』斎藤陽道
人間としての土台がしっかりしていれば、なんとかなる。みずからを与えることを惜しまず続ければ、たぶん大丈夫。
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但し、自分を犠牲にしてまで、他者を許す必要はない。
『さっき読んでいた、野口晴哉さんのお弟子さんであった三枝龍生さんの本の中に、「失礼」には「失礼」で対応するのが最善、「正礼」にのみ「正礼」で対応するようにして、「失礼」な相手に「正礼」で応えるのは、「礼」に対して「無礼」だというようなことが書いてありました。相手の「失礼」に対して「本当はいい人なんだ」と思うのは最もしてはいけないことだと。これはとても大きな課題ですが、大切なことだと思います。』吉本ばなな
一難去ってまた一難。
例えば「性善説」とか、なにかひとつの考え方だけで、全ての問題を解決することなんて出来ない。
だから、考え続けるしかないね。
人生は解決すべき問題ではなく、味わうべき神秘なのだ。